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第12話
1ー12 揺らいで
そんなお袋が俺に命じた。
「よいですか?セツ。あなたにはこれから私の故郷ルージナルスへと行ってもらいます。そこで私の兄であり元勇者であるアルバート・グレイアムに会い、そして、兄と協力して我がグレイアム侯爵家を再興するのです。わかりましたか?」
いや。
俺は、ぶんぶんと頭を振った。
ぜんぜん、理解できねぇし!
それに。
なんだって?
グレイアム侯爵家?
確かに、お袋は日本人離れした美貌の持ち主だけどさ。
だけど、俺、日本語しかわからねぇし。
無理!
マジで、無理だって!
「いや、これは、お願いではありません。決定事項ですから」
不意にお袋の姿が揺らいで、そして、徐々にそれが青みがかった銀髪のおっさんの姿に変わっていく。
「お前には、私の使い魔を産んでもらう」
なんですと?
俺が抗議しようと口を開きかけるのにおっさんがキスしてくる。
「んっ・・」
口をこじ開けられ舌を絡ませられ、俺は、なぜか、意識がふかふかしてくるのを感じていた。
おっさんは、俺の唇を貪るとペロリと舐めてから、俺に命じた。
「お前は、絶望して死ね」
「そんなこと」
はっとして俺は、すぐにおっさんを見上げた。
その姿がゆっくりと赤い髪の男の姿に変化していく。
ロイ?
俺は、頭がくらくらしてくるのを感じていた。
眩暈がする。
目を閉じた俺の耳元でロイが囁く。
「やっと見つけた。お前は、私の」
私の?
俺は、ちょっとドキドキしながら問いかけた。
俺は、あんたの何だって言うんだ?
ロイの口許が静かに動いた。
音もなく言葉を紡いでいく。
はい?
俺は、それは何かの間違いだと思った。
だって。
俺たちは、出会ったばかりだし、それに、俺は、何の力も持たないただの足手まといだし。
俺は、ロイの言葉を否定した。
そんなこと、あるわけがない。
それに、俺は、男だ。
頑なにロイの言葉を拒絶する俺をロイは、柔らかく抱き締めた。
「眠れ、セツ」
ロイの優しい、低い声が耳元で囁く。
「今は」
俺は、なんだかホッとして。
そして、眠りへと落ちていった。
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