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第58話
6ー12 戦っていました。
グレイシアは、睫をしばたたかせながら、俺を上目使いに見上げた。
「信じてくれますよね、セツさん」
俺は、グレイシアがしらばっくれているので奴の襟元を掴んでぶんぶんとゆすぶった。
「なんで!お前が、そんなことを期待しているんだよ?」
「や、めろ!」
不意に声のトーンが変わった。
俺は、手を止めた。
「セツ?」
グレイシアがふぅっとため息をついた。
「ま、ったく、こ、の程度の、こと、で、大袈裟、だな、お前、は。俺たち、は、所詮、は、ここ、の連中の、性奴にす、ぎん、のに」
はい?
俺は、グレイシアの言葉に衝撃を受けた。
確かに、俺は、金で買われてきた奴隷だし、そういうことを期待されてるのかもしれないけど、でも、俺は、グレイシアのようには割りきれなかった。
「俺は、そんなの、嫌なんだよ!」
俺は、知らない内に涙を溢していた。
グレイシアは、泣いている俺のことをそっといたわるように抱き締めて背中をぽんぽんと叩いてくれた。
「だか、ら、言った、はず、だろう?お前、が、泣くのは、今じゃ、ない」
「だって」
しゃくりあげる俺の涙をそっと指先で拭うとグレイシアは、にこっと笑った。
「そう、いうのは、本当、に、必要なとき、に、とって、おく、ものだ」
マジですか?
俺は、ベッドの脇の椅子の上にたたまれていた服を身に付けるとグレイシアと一緒にそっと剣士の部屋を後にした。
俺たちが食堂で朝食を食って、中庭に行くと驚くべき光景が繰り広げられていた。
なんと、あの剣士が戦っていた。
相手は、あのロイと、だった。
2人の足元にはボロボロになったダイナスたちが転がっていた。
いったい、何があったんですか?
「あっ!来たのか、セツ。あいつ、すげぇぞ!」
クーランドが俺たちの方へと駆け寄ってきた。
「殲滅の魔王といい勝負をしてる!」
はい?
俺の記憶が正しければ、今、世界ランキング1位の最強魔王であるロイとあのおっさんが?
「なんで?」
俺は、睨みあっている2人を見ながらクーランドに尋ねた。
クーランドがふん、と笑った。
「あんたのために、だよ」
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