60 / 167
第60話
6―14 お前を守る!
おっさん剣士、こと、お袋の兄ちゃんであるアルバート・グレイアムは、かつてこの王国の最強の騎士だったらしい。
なんでも、彼は、勇者と呼ばれていたんだと。
グレイアム侯爵家の当主であり、ノイスジーラ王国の宮廷騎士団の騎士団長であったこの人が、なぜ、奴隷にまで身を落としたのか。
「全ての始まりは、聖女の降臨だった」
アルバートおじさんは、俺に 話した。
「あの頃、俺は、聖女に、カーミラに夢中で、お前のお袋のことをカーミラを虐めたと責める連中と一緒になって責め立てた。そして、この世界から追放することに荷担した。だが、それはすべてカーミラのいとこであるエイダスの陰謀だったんだ。すべては、カーミラを聖女として、自分がこの国の実権を握るための策略だった」
「エイダス?」
どこかできいたことのある名前だな。
俺は、小首を傾げていた。
アルバートおじさんは、続けた。
「気づいたときには、すでに、国は、あいつの手中にあった。そして、エイダスは、俺のことを目の敵にしていた。俺たち、グレイアムの血筋が唯一の奴の気がかりだったのだ」
「あっ!」
俺は、ぽんと手を打った。
「エイダス!あいつだ!俺を妊娠させた奴は!」
「奴がお前に?」
アルバートおじさんの瞳が赤く光を発した。
「許せん!クレアだけでなく、その子にまで手を出すとは!しかも、孕ませたなどと、言語道断だ!」
「いや、なんか最初は、あの人、俺を媒体にして使い魔を作るとか言ってたし」
俺は付け加えた。
「別に、キスしかされてないし」
「ああ?」
アルバートおじさんが憐れむような目で俺を見つめた。
「かわいそうに、セツ。お前、俺を傷付けまいとそんなことをいってるんだろう?」
はい?
「本当は、オークの体液から作られた媚薬を飲まされた上であんなことやこんなことをされて、そして、ぼろ雑巾の様になるまで弄ばれたんだろう?」
はい?
俺は、慌ててアルバートおじさんに言った。
「いや、ほんとにキスされただけだし」
「嘘つくな!いくら、世間知らずでもキスだけで孕まされるなんてことがあるわけがないろうが!」
「それは」
俺は、口ごもった。
「たぶん、女神の陰謀なんじゃ」
「ああ?女神だって?」
アルバートおじさんが身を乗り出した。
「もしかしてカーミラが手を貸しているのか?奴ら、なんて酷い仕打ちを!」
アルバートおじさんは、がしっと俺の手を握りしめた。
「もう安心してもいいぞ、セツ。これからは、この剣聖アルバート・グレイアムがこの命にかえてもお前のことを守る!そして、いつか、お前とクレアの仇をとってやる!」
マジですか?
ともだちにシェアしよう!