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第65話

 7ー5 贈り物  「ロイ?」  俺は、ぼんやりとしたままロイのことを見上げていた。  「なんか、話があったんじゃ?」  「あ、ああ」  ロイがはっとして頷いた。  「そうだ。お前の領地への着任祝いに何か贈り物をしたいんだが欲しいものはないかと思って」  着任祝い?  俺は、少しがっかりしていた。  そんなことなんだ。  って、ちょっと待ってください。  俺は、自分に突っ込みを入れていた。  何、がっかりしてるんだよ、俺!  「麦の種と、塩、を」  俺は、小声でぼそっと呟いた。  この世界では、麦の種と塩は、貴重なものだ。  滅多なことではよその領地に渡さない。  だから、俺は、そんなに期待していなかった。  だけど、ロイは、俺の頼みに頷いた。  「ほんとにそれだけでいいのか?」  俺は、ロイに問われて一瞬たじろいだ。  それ以上のものを俺は、思い付かなかった。  トリムナードは、飢えている。  この冬を無事に越せているのかどうかも怪しかった。  春が来て俺が領地に赴任すれば、最初にきかされるのはこの冬の間に出た餓死者の話だろう。  俺は、来年の冬には1人の餓死者も出ないようにしたいんだ。  そのためには、夏の間に少しでも穀物を育てなくてはならない。  トリムナードは、もともとが炭鉱の町だったらしくて、農業はあまり根付いていないらしかった。  それに、農地どころか、領民すら1,000人ほどしかいないということだった。  それでも、俺は、望んだ。  「麦の種と塩が欲しいんだ」  俺が言うと、ロイは、にこっと笑って俺の頭を優しく撫でた。  「いろいろとがんばってるんだな。偉いぞ、セツ」  ロイの大きな、少しごつごつした手で撫でられて俺は、心地よくって思わず呻き声が漏れた。  「んぅっ」  「セツががんばってるのは、みんな知ってるから」  ロイが低い快い声で囁いた。  「あまり無理はするな」  うん?  俺は、思わず目尻に涙が滲むのを感じていた。  昔から、ずっと、俺は、がんばってても誉められることがなかった。  なんでかな?  4才年の離れた妹は、よくみんなに誉められていたような気がした。  まあ、妹は、かわいくて頭もよかったからな。  だけど、俺ときたら。  お袋譲りの外見はともかく、中身はいたって普通で。  地味に努力していても、あまり目立つこともなくって、誰も誉めてはくれなかった。      

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