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第73話
8ー5 恋心は利用しません?
「嘘なんかじゃないです」
不意に声が聞こえて振り向くとそこにはグレイシアが立っていた。
俺は、ぷぃっとそっぽを向いた。
「何しに来た?」
「だって、あなた、スマホの電源切ってるから」
グレイシアが瞳をうるうるさせて言った。
「セツさん、あなたの感情は、全てが嘘だった訳じゃない。恋する気持ちまでは、私には、コントロールはできませんから」
「嘘、つくな!」
俺は、思わず声を荒げていた。
「俺のこと、陰で見ながら笑ってたんだろ?」
「笑ってなんていませんよ!」
グレイシアが俺に向かって吠えた。
「いくら、世界のためだからって恋する心を笑ったりしません!」
グレイシアが俺に語った。
「確かに、セツさんの後押しはさせてもらいました。でも、その感情の全てがまやかしだったわけじゃない!」
マジですか?
俺は、グレイシアをじっと見つめた。
「当然です。もし、魔王にセツさんが抱かれればいいだけなら、もっとやり方がありますし」
はい?
俺は、信じられないものを見る様にグレイシアを見つめた。
こいつ、ほんと、クズだ!
クズ女神だ!
だけど。
こいつは、俺に嘘はつかない。
俺は、グレイシアにきいた。
「ロイは?」
「はい?」
「ロイも、俺のこと好き、だったのかな?」
「嫌いならあんなことしないしょ?」
マジで?
俺は、部屋から駆け出した。
ロイは。
俺は、途中で出会ったワチさんにきいた。
「ロイ、ロイザール、さんは?」
「アルデバロン様でしたら」
ワチさんは、驚いていたけどすぐに俺に答えてくれた。
「つい先程、領地へと出発されましたが」
「ほんとに?」
俺は、魔王連合ギルドの玄関へと走った。
だけど、通りには、もうロイの姿はなくって。
俺は、がっくりと肩を落としてうなだれた。
俺。
最低、だ。
ロイの真心まで疑って、彼を傷つけてしまった。
俺は、肩を震わせて嗚咽した。
俺は。
取り返しのつかないことをしてしまった。
俺は、その場にうずくまって泣いた。
通りかかった人々が俺の姿を興味津々に眺めていたけど、そんなこと気にすることもなく、俺は、泣いていた。
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