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第136話

 13ー6 開腹ですか?  陣痛の痛みは、すさまじかった。  ミオは、俺に何度も気付けのための薬を含ませた。  それでも、痛みは、俺を苦しめた。  「痛みを止めることはできないのです」  ミオは、俺に告げた。  「これは、産みの苦しみ。和らげることはできても、なくすることはできません」  俺は、だんだんと酷くなる痛みに歯をくいしばって耐えた。  痛みのあまり、声も出なくって、過呼吸ぎみになる。  意識が飛びそうになる度に、ミオに励まされ、叱咤される。  俺は、両手を握ってくれているアルバートおじさんとロイの手を握りしめた。  噛み締めた歯の隙間から思わず声が漏れる。  「呼吸を止めないで!ゆっくりと吐いて!この子の産まれようとする力と意思を信じて!」  ミオが俺に声をかけるのがぼんやりと聞こえる。  だが、陣痛は、終わることなく、俺は、疲労していった。  「おかしい。何かが、出産を阻害しています。何か、呪いのようなものが」  ミオの言葉をきいて俺は、薄れていく意識の中であいつの言葉を思い出していた。  「これは、お前のことを殺す」  そう、奴は、言ったんだ。  俺は、掠れた声でミオに告げた。  「前、に、呪い、を、かけられて」  ミオは、俺の言葉に耳を傾けたあと、しばらく考え込んでいた。  が、やがて、口を開いた。  「開腹しましょう」  はい?  俺は、涙に目の前が滲むのを瞬きで払った。  かいふく?  「そんなことしたら、セツが死んでしまう!」  ロイが抗議した。  だが、ミオは、譲らなかった。  「このままでは、母子ともども死ぬか、それか、セツ様のいわれることが本当なら、子供のみしか助からない。どちらも救いたければ腹を切って、子供を取り出すしかない!」  マジですか!!  俺は、ミオのその言葉に気を失うかと思った。  マジで?  腹を切られたりしたら、俺、ショック死しちゃいますよ?  「それしかあるまい」  アルバートおじさんが低い声で呟いた。  「このままだと、本当に、セツも子供も死んでしまう」  「しかし!」  「子供を取り出したら、すぐに、全力で治癒します!」  ミオが叫んだ。  「それしか、もう、この呪いから逃れる術はありません!」  「・・きって」  俺は、なんとか囁いた。  「きってくれ」  「セツ!」  「俺は、ミオを、信じる」  俺は、なんとか痛みの中で言葉を吐いた。  ロイとアルバートおじさんは、見つめ合うと頷いた。  ロイが俺を押さえ込み、アルバートおじさんが剣をかまえた。  ええっ?  俺は、途切れそうな意識の中で、叫んでいた。  「麻酔、麻酔をっ!」  「ダメです!セツ様、麻酔をしたら、子供が死んでしまいます!」  マジですか?  ミオは、俺の口に布切れを押し込んだ。  「しっかり!セツ様!」  「セツ、許せ!」  アルバートおじさんが剣を振り下ろした。  痛みが。  体を引き裂く。  俺は、布を噛み締め涙を流した。  遠くで。  赤ん坊の鳴き声が聞こえていた。  俺は。  闇に飲まれていった。

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