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第148話
14ー5 取引ですか?
「エイダスが、あなたを妻にしようと考え始めたのは、あなたが身ごもったエイダスとの子供を産もうとしていることを知った頃からでした」
スィラが俺を見て、優しく目を細めた。
「エイダスは、あなたを知ってから徐々に変わっていっています。彼は、自身の分身である子供をセツさんが産むことに心を動かされている。だから、子供とあなたを自分の手中に納めようとしているのです」
そのために、エイダスは、ワチさんの家族をとらえて人質にした。
ワチさんは、実は、名ばかりとはいえ、男爵家の令嬢だった。
ワチさんは、貧しい家のために魔王連合ギルドへと奉公に出ていた。
本当は、魔王の嫁になることも考えていたのだという。
だが、その頃には、もう、魔王の子を成せる人は、いなくなっていた。
だから、ワチさんは、魔王の嫁である俺に仕えることを選んだ。
そのワチさんを奴は利用した。
「彼女の妹を拐い、脅迫したのです」
妹と引き換えに、俺の子供を連れ出すように、と。
俺に付き従い、あんな辺境の貧乏領地にまできてくれたワチさんを。
俺は、腹がたって仕方がなかった。
最低の男だな!
「エイダスの本当の目的は、母であるセツさんでした。子供を手に入れれば、母であるセツさんも手に入れられると彼は、考えています」
スィラは、表情を曇らせた。
「ですが、誤算がありました」
それは、子供を連れ出したワチさんが姿を消したことだった。
子供を連れたまま、行方知れずになっているワチさんに業を煮やしたエイダスは、甥である王太子スィラに命じて、俺を捕えることにした。
「私なら、魔王の力に守られたあなたを拐うこともできる。なぜなら、私は、新しい勇者だから」
聖女と聖騎士の間に産まれたスィラは、魔王の持つ力に対抗できる唯一の存在だった。
「だから、私は、あなたの側にいたのです。セツさん」
スィラが微笑んだ。
「エイダスが、あなたを監視させるために、あなたの側に私を遣わせたのです」
マジですか?
俺は、スィラに訊ねた。
「これから、俺は、どうなるんだ?」
「たぶん、地下牢に囚われ永遠に日の光りもみることなく、性奴隷としてエイダスに蹂躙され、彼のために子供を産まされ続けることになるんでしょうね」
スィラがあっさりと答えたので、俺は、憤った。
「そんなの、お断り、だっつうの!」
「では、俺に力を貸してください、セツさん」
スィラは、俺に取引をもちかけた。
「俺と手を組んでエイダスを倒しましょう」
なんですと?
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