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第12話

「っ、んんっ……」  くち、と不意に曲がった指先が、妙なしこりに触れて、脳内パニックはピークを迎えた。  腰の付け根から背筋を駆け上がる淡い官能に犯されると、直の体温に流されてしまいそうだ。  このままでは流される! という雪の冷や汗が止まらない様子を見逃さない直は、せっせと襞を擦ってかき混ぜ始めた。 「ここ?」 「んッ、や、やめぇって……っ」 「ん……あ、これか?」 「ぅあッ……も、っと、とめんな別れるぅぅぅ〜……っ!」 「!」  涙目でか細くあげた苦肉の悲鳴を聞き、ピタリ、と止まる指の動き。  別れてしまえばまた不安になってメソメソとし、虚勢を張るのは自分なので、これは言葉だけの残念な脅しだ。  けれど意外にも効果は抜群。  叱られた直は、雪の弱点を探るのを諦めてくれたらしい。  半泣きの雪は、九死に一生を得た気分である。 「ユキは俺とすんの、いらんの……?」 「だってむ、無理やん」  そうだ。いやだと言っている。 「……なんで……? 俺のこと、嫌いか……?」 「そっ、そうちゃうけど……」  しょんぼりと落ち込んだ声が耳元で尋ね、雪は一気に責められているような気分になってしまった。  どうしていやなのか。  こんなこと、したこともされたこともないからだ。  どうして経験がないのか。  それは触られるのも触るのも怖かったからだ。  けれど直はかまわないと言い、むしろ逃げ腰な雪を追い詰めてやってみようと迫ってくる。  雪の体に興奮して、交わろうと甘えてくる。それなら──問題はないだろう。  フイ、と後ろに向けようとひねっていた顔を下に俯かせ、雪うさぎのように丸くなる。 「……っ急、すぎやッ……もっとゆっくり、してよ。怖いねん」  雪はどうして自分が拒んでいるのか、よくわからなくなってきた。  そうなると駄々をこねているようで、恥ずかしくなる。  雪は直に恋愛感情は持っていないが、触られるのがいやな人物ではない。  むしろ誰かに触れてもらえるのは、緊張するし怖くもあるが嬉しかった。  直は雪の素肌を気持ちいいと言って、外側に比べるといくぶん温い口内や体内を、あたたかいと言った。  どうしても寒いはずなのに、虚勢を張って断固と嘘を吐く。  それだけ雪とセックスしたいのだろう。  嫌いになったり引いたりした様子は微塵もない。それはとても──嬉しい。 「ん……ごめん。ちょい……浮かれてんねん」 「はっ……っ……んふ……」  中を引っ掻いていた指が、ヌル、と抜ける。温かい熱をもっていた指が出ていき、少し残念に思う自分がみっともない。  キューン、と子犬のような鳴き声を漏らしそうなくらい反省する直が、雪のうなじをベロリと舐めた。  その舌が、酷く熱い。 「っ……な、ナオが!」 「ん……?」 「ナオがめっちゃ熱いから、急には無理なだけ、やで……?」  泣きそうな声が限界を迎えて、グスン、と鼻をすすった。

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