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第3話
結局、週末の婚活パーティーにあくまでも大島の付き添いという形で参加することになった。
婚活パーティーが開催されるカフェに大島の車で向かう。
「乗り気じゃなかったのに何かっこつけてんだよ、槻山せんせー」
湊音はただ前髪を下ろしただけ。癖っ毛でうねっている。格好はビジネスカジュアル。身なりには無頓着である。
カフェに入るともうすでに数人の男女が中に入っていた。それぞれ知らない同士、遠慮してる者もいればもう打ち解けあっていたり、友達同士できて固まってる女子もいる。
主催者側によると男女それぞれ十五人ずつの計三十人。女性は25歳から35歳、男性は25歳から40歳という年齢の制限がある。大島はギリギリセーフというわけである。大人の少人数でのパーティーである。
受付を済ますと二人は別の席に座らされる。不安になる湊音。大島は親指をぐっと立てられた。
ただの付き添いできたはずの湊音はどうすれば良いのかわからない。なぜならば彼は前妻が初めての恋人であり、他に女性と付き合ったことがないからである。
特に興味もなかったが(性的にはあったが)奥手というのもあり、前妻に猛アタックされそのまま関係を持ってしまい結婚まで行ってしまったこともあって自分から好きになって告白はないのだ。
湊音は一人もぞもぞする。
『早く帰りたい……』
「皆さんお揃いのようで。これから婚活パーティーを始めます!」
司会の女性がそうアナウンスをした。
その後始まったのは男女それぞれ1分間ずつ挨拶がわりに話すコーナーである。
気づけば目の前に座っている女性とスタートのようだ。とても小柄で若い。
「よろしくお願いします。槻山さん」
「あ、はい……じゃあプロフィールカードを」
互いにプロフィールを書いた紙を交換して読み合う。周りはそれを見ながら話を進めているが、湊音たちはなかなか進まない。
『明里さん、かぁ。僕よりも5歳年下……まだ20代、でもアラサー……フィットネスジムで働いている……何を話そう』
と湊音は頭の中で何を話すか悩みながらも水ばかり飲んでしまう。
目の前にいる明里も湊音のプロフィールカードを見ながらもじもしし、顔を赤らめる。
「あ、あの!」
と二人同時に声を出した瞬間、ホイッスルが鳴り司会者が
「はい、男性の方は席の御移動をお願いします。次の方とお話しくださいねー」
と言うと明里は頭を下げ、湊音も慌てふためきなんとも頭を下げて飲み物を持って隣の先に移動した。
その後も何度も何度も戸惑い、悩み、いろんな女性がいながらもろくに会話ができない湊音。目の前の女性たちは苦笑いしたり、呆れたり。散々だった。ここまでして女性が苦手だったのか、常に若い女子生徒たちには話をしているのに、と湊音はがっくし来ている。
『はぁかったるい。早く帰りたい……』
婚活パーティー開始して2回目の席替えを終えてデザートの時間だがトイレに行き、飲み放題のドリンクを取りに来てため息をつく。席には戻りたくない、とさっきまで座っていた席に、他の席も見るとどこも賑わっている。たった2時間でここまで仲良くなるのかと。
大島もお酒を飲んで上機嫌である。
何故ここまで湊音が憂鬱なのは、彼がバツイチだったからだ。
最初の一対一の二分トークで紹介カードを渡すとまず持ってすぐ『離婚歴あり』を見て、ふーんと言われる。
何年結婚していたのか、中にはお子さんはいますかと深く聞かれたが、子供はできなかったと言ったら、ハァと言われて会話が無くなった。
『僕に生殖能力がないと思ったのか。みんな結婚してすぐ子供欲しいんだろうな』
と。
しかし湊音は実際子供ができないわけではない。若いうちに結婚した湊音と彼の元妻の二人はまず仕事を選んだ。子供はもう少し落ち着いてからにしようと避妊を必ずしていた。
しかし離婚協議をしている最中、酒を飲まされてベロベロに酔わされ我を失った湊音、離婚が決まった時、子供がお腹にいると告げられ絶望した。そこまでして子供が欲しかったのかと。だが自分の子供であることは間違いない、子供には罪がない。
そして先日産んだと連絡をもらって会いに行った湊音は一度その赤ん坊を抱きしめた。
小さな男の子で泣き声が大きかった。の指を握った。その瞬間、彼はもう会ってはいけない、元妻も夫婦に戻ることは望んでいなかった。
湊音は養育費も払っている。元妻は拒否をしたが……流石に今回のパーティーでのプロフィールカードに認知した子供がいる、養育費を払ってることを書けるわけがなかった。ただの付き添いで来たものの説明するだけでも苦しくなるだけである。
『僕はまた恋ができるのか? ……まぁもういい』
と、好きなオレンジジュースを注いでいる時だった。
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