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第4話
「ねぇ、オレンジジュース好き?」
後ろから急に声をかけられびっくりしてオレンジジュースを、少しこぼしてしまった湊音。
「ごめんね、声かけちゃったから……洋服濡れてないかしら」
その人は湊音よりも背が高く、とても派手な男性だった。
『背、でっか。てか耳にピアスたくさんつけてるし……それに香水のいい匂い……』
「タイプの人見つからなかった?」
「えっ、その……あの」
「さっきからトイレ行ったりここに来てたりしてた」
その人は湊音の行動を見ていた。
「あ、わたしは李仁っていうの。あなたは?」
「槻山……です」
李仁は首を横に振る。
「下の名前」
「湊音です」
「湊音くん、いい名前……わたしもオレンジジュース飲もうかな? お酒ばかり飲んでたから」
李仁はオレンジジュースを注ぎ、湊音の前で飲んだ。ゴクゴクと、喉仏が動く。何故か湊音はそれに見とれてしまう。
『カッコいい……』
「はぁー、美味しい。じゃあ、楽しみましょ。お酒もっと飲まないと損よー。あ、これはわたしの名刺だから。お店の」
と、黒い紙みたいなのを渡されて湊音はポカンとする。
黒い紙は名刺であり、黒い名刺は初めてである。
『ホストクラブか? いや、BARで書いてある……』
名刺を見つめてると、そこに一人の女性がやってきた。
湊音と一番最初に話していた女性、明里である。湊音も背が低いが彼女はさらに低かった。
「あの、お話ししたいです……ご一緒しませんか?」
「え、あっ、はい」
気づけば他のテーブルも一対一で話しているカップルもいた。
先ほどの李仁は数人のテーブルに戻っていたがそんな彼を目で追っていたが明里が湊音を見ている。顔を赤らめている。
「あ、あちらで……よかったら」
湊音は明里をエスコートした。話は思いの外はずみ、お酒も勧められるがまま飲んだ。
そこから湊音は記憶がない。美帆子や大島、李仁のことは忘れてしまうほど。
パーティー終了後そのまま湊音は明里とラブホテルへ直行して朝までセックスに明け暮れた。
元妻以外、そして自分よりも年下で胸もでかい女性と……。酒の力もあった。しかも数ヶ月ぶり。もう理性が効かなくなった。
だが湊音は、これは恋ではない、と朝になって明里の寝顔を見ながらタバコの煙を吐きながら思ったのであった……。
そして何故か少しずつ記憶が戻り、李仁のことを何故か思い出すのであった。
また学校の禁煙室にて。相変わらず気怠そうにタバコを蒸す湊音。左手に持つスマホには明里からメールが来てる。
婚活パーティーが終わって二週間経つが、そのあと二回ほどあって二回ともセックスをしている。明里の部屋で。
全く持って愛のないセックスだが明里は相当湊音に惚れ込んでいるようだ。
『こんな僕のどこがいいのだろうか。会話も適当に返してるのに……』
湊音にとって明里は別にタイプでもないし、6つ年下ともあって甘えてくる彼女にどう対応していいのかわからなかった。とりあえずまた適当に繕っているだけであった。
「おいー、湊音先生。ここにいたのか。剣道の稽古つけてやるぞ」
湊音は大島と剣道部の顧問をしている。定期的に剣道歴の長い大島から稽古をつけてもらうのだが社会人になってから始めた湊音は勝ちっこない。
「やめてくださいよ、腰痛めてしばらくは勘弁」
「ストレッチ怠ってるからだろ。それとも婚活で持ち帰った女とやりまくってるからだろ」
ニタニタと笑う大島。そんな彼は同じく合コンで出会った少し年下の女性と意気投合したそうだ。
「大島先生だって……」
「めっちゃエロいんだよなーあの子」
と、下で腰を振るようなジェスチャーをしながら他人には聞かせられないゲスな話である。
「それよりもさ、婚活パーティーで黒い名刺を渡されなかったか?」
『あ、あの……』
湊音はリヒトを思い出し、うなずく。名刺はどこに行ったか自室を探せばあるだろうが……。
「あの人とメアド交換しててさ」
「そうなの?!」
「今度BARに来てくださいってメール来ちゃってよ……あれオカマだよな。喋り方とか仕草とか。ゲイバーだろうなぁ」
ふと湊音はリヒトのことを思い出そうとする。
何故かあの見惚れた喉仏を思い出しドキドキしている自分がいると湊音は戸惑っている。確かに喋り方がオネエ口調であった。
「んでさ、一緒に来てたおチビさんも連れてきてって……」
「ぼ、ぼくも?」
「うん。ぼったくりバーじゃないよな? だから今度の週末ついてきてくれないか」
湊音はスケジュールを確認するとその日の明後日に明里と水族館デートの予定が入っていた。
それよりもあの李仁という男の人に会えるのか、と思うと……湊音はうなずいた。
そして週末、部活動も終えて大島と共に湊音はバーに向かった。名刺同様看板も黒。
『バーなんて初めてだ……ネットで調べたらゲイバーでもぼったくりバーでもないらしいし……』
不安が募る中、店の扉を開けた。店内は少し狭いがダーツも置いてあり、カウンターとひとつテーブル席もあった。
店内は薄暗くて何人か客もいる。そしてカウンターの中に二人いるうちの一人、湊音は気付いた。だがパーティーの時とは違う髪型、スーツ姿でシェイカーを振るリヒト。そして二人に気付いた李仁が微笑む。
「あら、いらっしゃい。おチビちゃんもきてくれた」
『おチビちゃんって余計なお世話だよ!』
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