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第11話
またとある夜。湊音は李仁のバーにいた。先日は学校帰りに本屋に寄って李仁を遠くから見ていたのだが最近は駅に近い事もあってか毎日のように本屋に寄ってから帰るか、本屋にいなければバーに足を運ぶ生活が続いて1ヶ月。
ちょうど1ヶ月前に志津子からマンションのベランダでタバコを吸うことが禁止になったと言われ、さらに職員室にあった喫煙室が無くなるどころか校内全面禁煙、モール内のあの喫茶店でさえも禁煙、喫煙者が追い込まれる事態になり、湊音が唯一タバコを嗜めるのが李仁の働くバーだけであった。
ビールと好きなタラコスパゲティ、そしてタバコ。そして李仁。
湊音にとっては憩いの場所となっていた。彼自身もなぜかわからない。メールもほぼ毎日のようにして、といってもたわいのない話や本の話とか1日数件だが続いてる。
本屋では遠くから見てたまに気づいたらリアクションをしてもらう、バーでは同じ空間にいれば湊音はそれでよかった。
だがそれ以上は湊音は進めないままであった。どうしてこんなことをしているのか、本人もわかっていない。アクションも起こせない。明里との件があってからなのか、それとも、相手が異性でなくて同性だからなのか。
そんな中、彼の授業中に手紙を周りしている生徒がいた。メモ用紙を器用に折っていたのだ。
メールとは違う、声にするのにもどうにもならない感情を文字にして手紙に託せば良い。
生徒に教えてもらった手紙の折り方。それを今、湊音はポケットに忍ばせている。
本屋では渡せなかったがバーでならカウンター越しに渡せるのではと。
手紙には湊音はこう書いた。
「二人きりになれるところでお話ししたいです」
それだけだ。言葉にすればいいのに、メールで打てばいいことなのに。
『どのタイミングで渡そう』
とチラチラと李仁の様子を見る。相変わらず姿勢も良く動作一つ一つに惚れ惚れしてしまう湊音。でも今日はこれを渡してから帰りたいようだ。
「どうしたの、湊音くん」
どうやら視線と仕草で李仁に勘付かれたようだ。微笑む李仁に湊音は決死の思いでポケットから取り出した手紙を差し出す。
「あら、なぁに?」
と、その場で開けられ湊音は焦るがそれを読んだ李仁が納得し、湊音の耳元でささやいた。
「ねぇ、あと一時間で上がりなの。そのあと付き合ってくれる?」
そのささやきでさえもどきっとしてしまう。湊音はその異常さに悶える。そして冷静になり小声で答えた。
「はい……待ってます」
湊音は先に店を出て外でタバコを吸って待っていた。いい加減やめようと思ってもやめられないようで、明里にもやめて欲しいと言われていたことを思い出して時たま胸が痛むのか浮かない顔をしながら結局タバコを吸っている。
「おまたせ」
と店から出てきた李仁は派手な服を着ていた。
『僕と二人きりの時はシックな服じゃないのか……あっちが好みなんだけど』
李仁がついてきて、と夜の街を案内する。湊音は李仁のバー以外は興味がなかった。
「どこいくの……」
「二人きりになれる場所」
湊音は心臓のペースがさらに速くなる。そして李仁が湊音に手を差し伸べる。
その手を湊音が握り返す。そして見つめ合う。無言のままさらに奥に歩いていくと「カラオケ」とチープに書かれたお店。
『カラオケ屋さん?』
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