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溢れる涙
『分かったから、手首を放せよ。』
『うん。離れるなよ。迷子になるからな!』
『それは、愁哉の事か?俺は迷子にならない。』
『違う!俺も迷子になるわけない!』
そう、迷子にはならなかった。
ずっと俺の横で夜空を見上げて花火を見ていた笑顔の愁哉が俺の前から姿を消そうとしている。
「愁哉・・・行くな・・俺の前から消えるな・・・・・愛して・・ると・・花火を見る約束・・・。」
『お別れだ恭弥。幸せになれ!』
「愁哉、行くなよ・・・俺を1人にするな愁哉・・・・。」
俺の前から消え去ろうとしている愁哉を止めようとして手を伸ばすと包み込む様な温もりを感じて重たい瞼をゆっくりと開けた。
「良かった。大丈夫ですか?藤澤さん。」
「は・・・長谷川?」
「はい。俺、なんかイヤな感じがしたから戻ったら藤澤さんが倒れそうになっていて・・・あの・・俺じゃあ・・・・・代わりに慣れませんか?」
「代わり?なんの話をしてるんだ。」
俺の手を両手でギュッと握りしめながら泣きそうな顔をしている長谷川。
「入社してから俺は藤澤さんを見てきたんです。さっき倒れて藤澤さんは泣きながら何度も名前を呼んでいて・・・俺じゃあその人の代わりになりませんか!」
「泣いて・・・。」
確かめるかの様に空いている手で顔を触ると少し濡れている。
泣いたなんて愁哉を失った日でも涙を流さなかった。
流さなかったんじゃない愁哉の死を受け止めれなくて俺は泣けなかったんだ。
それなのに俺は泣いている。
今も涙が溢れて止めようとしても止まらなくて長谷川が居るのに俺は声を上げて泣いた。
長谷川は俺が泣き止むまでギュッと俺の手を長谷川の大きくて温かな両手が握りしめていてくれた。
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