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第2話 乱入
「あるぇ?」
おねーさんの胸の内でぽやぽやしていたオレは、野太い声の正体に気付いて首を傾げた。ら、更におねーさんの胸に深く頬を沈めることになった。柔らかい。
娼館の扉を蹴破る勢いで突破してきたのは、一人の男。
なんと、見覚えがある。
「アレク、お前、なんでここに?」
何でもクソもない。ここに来るということはそういうことを目的にしているのだろう、そうだろう。
だけどけしからん。そう思う。
だって、コイツは。
「お兄さん、お知り合い?」
「やだぁ、こっちも男前!」
「お兄さんとはまた違ったタイプ」
こちらはアレクセイ・ウィストン。
「そうそう、コイツはどーりょー」
同じ第四師団に所属していて、同僚であると同時にオレの親友でもある。
刈り込まれた燃えるような赤髪、エメラルドの瞳、鍛え上げられた筋肉で覆われた恵まれた体格。同期の中でも出世株で。
「おっとこまえだろ?」
女の子達が色めき立つ気持ちは分かる。だけど。
「でもざんねん、コイツはこの度結婚が決まってしまったのです」
オレが言うと、えー、ざんねーん、それでもいいわよう、それもそうねぇ等々ご意見は様々だった。
オレもあれくらい、気負いなく言えるような間柄だったら良かったのに。性別が女なら良かったのに。
冗談めかして残念の一言やそれでもいいなんて、せめて言えたなら。
「シオン」
オレのご紹介に与った男前は、何故か眉間に深いシワを刻んでおられた。
「お前、こんなところで何を」
「野暮なこときくなよ」
わざわざ確認するようなことじゃない。
「お前はこういうところに出入りするようなヤツじゃないだろ!」
「そういう、決めつけは、よくない」
オレの返答が気に食わなかったのが、アレクの声は益々渋みを帯びた。が、オレもオレでイライラしてくる。
「なに、せっきょーか?」
まさか、なんで、よりにもよってコイツに口出しされなきゃいけないんだ。
そもそも結婚までの道のりが決まったクセに、こんなとこに来てるお前の方こそ説教される必要がある。
「他の模範となるべき騎士が、こんな人目につくところで酒と女に溺れている姿を晒すとは。風紀が乱れる元だろうが」
「しょーがないだろ、お店のみんなが、一番気に入ってもらえた娘がひと晩一緒に過ごせる権利を〜とか言いだしたんだから」
オレが望んでこうなったんじゃない。
それに、そもそも。
「ニグラスもアロンもアベルだって、きし団の男はどいつもりよーしてる」
「それは……」
「…………なっとくいかない」
不公平だ。差別だ。それに過干渉!
「あっ、お兄さん」
オレは酒瓶の残りを全部グラスにぶちまけて、イライラを飲み込むために一気に煽った。
限界なんてとうに超えている。今更一杯二杯で何も変わらない。
「ふじゃけんな」
ダン! とグラスの底がテーブルを叩いた。
「おまえはオレにせっきょー垂れる資格があるのか。ないだろ。じょーかんの娘と見合いもといほぼ結婚がきまってるクセに、今日だって二人で茶ぁしばいてたクセに、自分は女といちゃこら宜しくしておいて、にゃにが風紀がみだれるだよ、いーかげんにしろ」
酒の飲み過ぎか視界がぼやける。いや、涙でも滲んでいるのだろうか。
涙? なんで? 泣き上戸になった覚えはないのに。
この時点で数名のお姉さんが状況を察してあぁーなるほどーという顔をしていたことに、当然オレは気付いていなかった。
「おまえに、オレのじんせーに口出しする資格とか、ない。他のもはんやらふーきの乱れが気になるなら、つぎの登城のときに、すきに処分すればいいだろ。どうせ、もうすぐ」
お前は昇格してオレより上の立場になるだろうし。
「――――なるほど、よく分かった」
これ以上する話はないと、オレはアレクから視線を外した。
「オーナーは」
「はい、こちらにっ」
「上は空いているか」
「えぇ、御覧の通りの状況ですから」
向こうもこれ以上は絡んで来るつもりはないらしい。部屋の確認をするということは、どの子かご指名して一晩過ごすのだろう。
未来の奥さんが気の毒だな、と思う。こっちはいい具合に幻滅できて良かったけど。
「一番いい部屋に案内してくれ」
「ふぁっ!?」
が、何故か次の瞬間、オレの身体はぐわりと持ち上げられていた。
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