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第4話 お仕置きと口うるさい幻覚
「あっ! んぐぅ!、 も、もうむり、むりぃ!」
もう何度目か分からない。前立腺を刺激されて、オレはまた高みに放り上げられる。
「なんだ、またイったのか?」
「あぐ、はっ、はう、らめって、言ってうだろ、んぁっ」
散々に解され蕩かされたナカには、アレクの剛直が収まっている。
これがまた信じられないくらい大きい。同じ男としてもちょっと怖くなるくらいのサイズ感がある。
挿れただけでもう腹がぱんぱんで息が苦しくなるって言うのに、男は手加減なしでそれをしつこくしつこく抜き差しする。
「あぁ、今、出さずにイったな?」
確かに、イったのに出した感覚はなかった。それもそのはず。
「も、でない……」
相手がまだ一度しか果てていないのに対し、オレの方は何度も射精させられていた。
「そうか? と言うより、出さずにイく方法を身体が覚えたんじゃないか?」
「……ちがう」
「違うかどうか、復習して試してみたらどうだ。訓練と同じだ。繰り返し繰り返し、身体に覚え込ませていく、それが上達の近道だし、な!」
「あぁあっ! あれく、あ、おく、ぐりぐりするな、あっ、そこは」
このアレクは鬼畜だ。容赦がない。身体を造り変える勢いで、オレの身体に知らなかった感覚を、とんでもない快楽を植え付けて行く。
滅茶苦茶にしてほしいと心の奥底で思ってたけど、それにしてもえげつない。終わりが見えない。自分の願望のあまりの欲深さに我ながら慄く。
「んんぅ~!」
「シオンはっ」
「ひうっ」
「飲み込みが早いな、普段の訓練と同じだ。ほら、出さずに連続イきとは」
ぐちゅぐちゅと卑猥な音が薄暗い部屋に鳴り響く。腹の底が熱くて堪らない。イキすぎていて、もう頭がどうにかなりそうだった。
振り落ちて来るアレクの声には苛立ち、愉悦、仄暗いが含まれていて。
「もう女と変わらない身体だな」
そんなことはない。
言われて、即座にそう思った。
女と一緒ではない。全然違う。
この国では同性婚は許されてるし、だからそう珍しいものでもないけど。
でも、オレはコイツの本来の嗜好に合う相手ではないだろうし、アレクは特に貴族で長男だから跡取りが必要だし、上官の娘でないオレと結婚しても出世できないしどこにも旨味がない。
「ここで」
「んんう!」
「これほどの快楽を覚えてしまえば、もう女など抱けないな?」
奥を小突かれる。そして意地悪く言われる。
「こんなところには必然、用はなくなるな?」
「ひっ、っぁあ」
女なんかいらない。
オレは多分、男女どっちでもイケるんだとは思うけど、夢とは言えお前にこんなことまでされて、これを覚えているうちは他の誰かとどうこうなんてなれない。
「シオン?」
「オ、オレが」
でも悔しい。
「オレがどこで、だれと、なにしてても」
オレだけが苦しい。
「オレのじゆーだろ、もうほっといてくれ」
「お前らしくないな。何があった?」
自暴自棄な気持ちで吐き捨てたら、急に声音が柔らかくなった。本当に心配してる時の声。
ずるい。卑怯だ。誰のせいでこんなにずたずたになってると思ってる。
オレが勝手に好きになって、勝手に失恋しただけだけど。
でも、だったらせめてそっとしておいてほしいのに。
「あとこんなことはやめろ、あいてがオレでも、プロでも、だれでもダメだ。未来のおくさんが、かわいそーだろうが。見そこなったぞ」
「シオン……?」
何て言えばいい、どうすれば納得して、放っておいてくれる。
オレはもう苦しいから、全部投げ出したいのに。
「――――しつれんしたんだ」
「……は?」
その言葉は、するりと唇の隙間から漏れ出ていた。
「ヤケのひとつも起こしたくなるってもんだろ。ゆるせよ」
「お前が、失恋?」
そうだ言ってしまえばいい。
「そうだよ、だから夢でくらいもっと優しくしてくれてもいいだろ、きもちーのは嬉しいけど、でも」
苦しい。虚しい。だってお前は結局別の誰かのものになってしまうのだから。
「シオン、今何て言った? もう一回言ってみろ」
ぶつぶつと呟いていたら、やり直しを要求された。やめろ、オレにこれ以上悲しい現実を認識させるなと思いながらも、ヤケクソな気持ちで叫ぶ。
「夢でくらい、好きなヤツにやさしくされたいって言ってんの! わけわからんまま抱かれて、せっきょーかまされて、お門違いなしんぱい向けられて。当の本人に、なにがあったか言えだなんて、そんなこと、あんまりざんこくだろーが!」
叫んでから瞬時に後悔した。
あまりにもダサい。情けない。王立第四師団の騎士に許される発言じゃない。もうオレのいいところがオレの中に一個も残ってないみたいな状態。
「もうやだ、この夢終わりでいい……」
この上涙まで滲みそうな気配がしてきて、それを誤魔化すためにオレは枕に顔を埋めた。
「いや待て勝手に終わらせるな」
「うるさい。夢主のオレにそーぞーの産物がいけんするな。オレはもう目をさます」
「いや待て」
「待たん」
掴まれた肩を捩る。というか、解放してほしいのは肩だけじゃない。よくよく思い出したらまた突っ込まれた状態だ。
そこら辺、夢なんだから臨機応変に対応しておいてほしい。
「お前、俺のことが好きなのか。オレが上官の娘と見合いすると知って、そんな自暴自棄になってるのか」
が、弱って疲れてボロボロの時に見る夢と言うのは、やっぱりそれに見合った不幸せなものだった。
絶望してヤケを起こしてたオレの頭の中に、ハッピーに物事を捉える余裕がなかったのだろう。
「なににやついてる。夢の中のお前は、デリカシーがなくてさいてーだ。ひゃくねんの恋も冷めるいきおい」
「冷めるな冷めるな、あっためといてくれ」
振り仰いだ顔は大層ムカつく表情をしていて、段々とオレは本当にこの男が好きだったのか、何か勘違いをしていただけではという気もしてくる。少なくともアレクの顔はだらしなく緩んでいて非常に腹の立つ感じだった。
「教えてくれ、シオン。お前、オレが好きなのか」
デリカシーの意味を代わりに辞書を引いて赤線で強調してその鼻面にぶち当ててやろうか。
「あぁそうだよ! すきだよ! すきですよ! それがどうかしましかね!」
プツリ、自分の中で我慢していた諸々が切れる音がした。
言って、何が変わる。
上官の意向に逆らって、お見合いやめてくれるのか。オレの受け入れてくれるのか。同じように好きになってくれるのか。
あり得ない。自棄っぱちになって叫んだって、オレの現実は何も変わらな――――
「うえっ!?」
ぐん、と腹を埋めるものが急激に体積を増した気がして、寝台の上で小さく撥ねる。
「え、あ、なにおっきくしてんの、あれっ?」
下腹が、息が苦しい。どこにも隙間がない。みっちりと相手の形に拓かれる感覚に意識が全部支配される。
「や、なにこえ、もうこれ以上はっ、あぁ!」
「シオン」
そもそももう十分ですというほどご立派なブツを捻じ込まれた気がしたのに、そこから更に上があるなんて聞いてない。いくらなんでもやりすぎだ。自重してほしい。こんなもの、夢だろうと現実だろうと知ってしまったらきっと他の誰でも、何でも満足できなくなってしまう。そんなのは困る。
でも。
「俺達両想いと言うことか」
「はぁあ? んぅ!」
息を詰まらせ内側を満たす感覚に耐えているこちらを慮る様子も見せず、熱い吐息でアレクは訳の分からないことを言い出した。
「んっ! ってちょ、まって、あぁ!」
両想い?
なんだいきなり。めちゃくちゃ飛躍したな。そもそも会話になっていない。
けれどそこを追求する余裕はなかった。
「ぁ、あぁ! アレク、らめらって、んくぅ!」
ガツガツと更に容赦なく抜き差しを繰り返され、喉からは断続的に喘ぎ声しか出てこない。
でもまぁこの整合性のなさ、展開の雑さ、さすが夢って感じだけど。
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