4 / 12
第4話
適当な林で、指の先に載せたメジロを空に向かって伸ばした。メジロは戸惑うように首を動かしていたが、少しして羽を震わせると、木々の間に飛んで行った。
飛び立っていた鳥を見ながら思う。
イブキは檻から出たいと思っていない。
イブキがいるのは、見張りがいる牢獄ではない。切った竹が刺さった洞穴だ。時間をかければ、土を掘るなりして、出るのはそう難しいことではないのではないか。
イブキは、好きであの穴から出たがらないように見える。それがイブキの言う約束のため、なのだろうか。
俺には、何も望まないのだろうか。
木こりは手の中の斧を見た。鍛えられた刃物は鈍く光り、木こりの精悍な顔を映している。
――俺に願えば、すぐにでも出してやれる。
イブキは罪人だろう。そんな男を放てば自分も罪に問われる。そんなことは怖くはなかった。ただ自分がしたいか、したくないか。それだけ。イブキが善人か悪人であるかということも、どうでも良かった。
俺のために、笑うあの男が見たい。
しかし、と自分自身に問いかける。
――俺はあの男を自由にしたいのだろうか。
イブキを出したくない。それはイブキが罪人だからでも、自分が罪を背負うからでも、どの理由でもない。見目が良く、若い男だ。町へ出れば女も男も放っておくまい。
自由を得たあの男は、自分に感謝するだろう。そしてきっとこんな山など捨てて、どこまでも遠くに行く。それよりもイブキをこの山に閉じ込めてしまいたいと、心のどこかで思っている。生業に取り憑かれた自分と同じように。
あの男を手元に置いておきたい。同時に、あの美しい顔が取り乱し、俺しかいないのだ、連れて行ってくれと泣きついてほしい。
二つの感情は相反するが、どちらも根本はひどく勝手で、乱暴で……臆病なものだった。誰とも触れあわず、話さず、おおよそ人の感情がなかった自分を、ひどく揺さぶってくる。
どこかで鳥が高く鳴いた。その声は、イブキの歌声にも似ていた。
ともだちにシェアしよう!