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May

 相変わらず、雑音の酷いラジオ。  それでも何もないよりはマシだし、時間や日付の感覚を維持するのには大いに役立っていた。  このところの話題はと言えば、5月の大型連休で持ちきりだ。  ミュージシャンを目指しつつフリーターをしていた頃も、昼も夜もない監禁生活を送っている今も、カレンダーにどれだけ赤い数字が増えようとも、俺にとっては大した意味はない。  が、あいつは、芝原はどうだろうか。  一丁前にシーズンイベントを楽しむ恋人気取りなのか、なかなか季節の移ろいに敏感な男だ。  まさか旅行にでも連れて行って貰えるとは思っていないが、俺にはひとつ、気がかりな事があった。  芝原は2日3日、家を空ける事はあっても、2日3日、家に留まっていた事がないのだ。  休日だからと言って、ずっと家に篭っている必要もないとは思うけれど、芝原に限って、休日の度にどこかで遊び呆けているとも考えづらかった。  いつも遅くに帰ってきて、食事をして、たまに俺を風呂に入れて、排泄物の入ったバケツを片付けて、一頻り一方通行な会話をして、眠って、数時間後には出かけてしまう。時には携帯の着信音と共に飛び起きて出ていく事もあった。  はっきり言って、休んでいる様子がない。  それほど休みがないのか、或いは、ウォークインクローゼット確保の為に上がった家賃のせいで、掛け持ちバイトでもしているのだろうか。  その激務に甘んじてまで、よく俺に構う暇があるな、という純粋な感想はある。  芝原のスーツ姿は見た事がなく、大抵はポロシャツにチノパンといったラフな格好だ。職場で着替えているのか、そのまま仕事に就くのか。これだけ働いて幾ら貰っているのか。  だが俺の思考はそこで停止する。  必要以上に、こいつに興味を持ちたくなかったからだ。  なんの仕事をして、どういう人間に囲まれていて、外ではどんな風に振る舞っているのか。  俺は意図的に、その想像をしないようにしていた。  こんな男の事など、深く知らない方がいいに決まっている。罷り間違って同情心など芽生えてみろ。馬鹿馬鹿しいにもほどがある。  しかし俺の日常はとにかく退屈で、考え事をする時間だけは多分にあった。  俺は俺に、言い訳を始めた。  もしも芝原が長期間帰って来ないような事があれば、俺は衰弱して死ぬ。安っぽい賃貸アパートのクローゼットくらい、死ぬ気になれば壊せない事はないのかもしれないが、助からない可能性がゼロでない事も確かだろう。  だから、少しくらい、俺は芝原の事を知らなくてはならない。  最近では、そう考えるようになっていた。  当初の決意を思えば都合のいいこじつけかもしれない。でも万が一、芝原が過労で倒れでもしてみろ。その時俺はどうなる? 助けは本当に来るのか?  だとすれば、意地を張って無関心を貫いてばかりもいられない筈だ。  カレンダー上では連休の初日、俺は、思い切って問い掛けてみた。 「お前……休みって、ないの?」  曖昧で端的な質問だ。  いつものスーパーの値引き弁当を食べながら訊くと、箸を持つ芝原の手が止まった。 「休み?」 「いや……お前いつも、仕事、忙しそうだから……」  心配すべきは我が身であり、決して芝原の心配ではないのだけれども、どんな言葉を選ぼうと、まるで芝原を案じるような発言になってしまい、俺は目を逸らす。 「そっか……そうだよね、いつもミツルに寂しい思いさせてるもんね」  芝原は随分としおらしく、眉を下げた。  暇で暇で発狂しそうな状況を寂しいと表現するのなら、大いに寂しい思いをしてはいる。勿論俺が寂しがったり芝原を恋しがったりしている筈はないが、芝原の目にはそう映っているであろう事は、いい加減把握している。 「大丈夫、あるよ、休み。連休とはいかなかったけど」  ただその言葉に俺は、少なからず安堵した。  客観的に見てこいつは、幾らなんでも働き過ぎだ。  たとえ俺を監禁する誘拐犯であろうと人の弱っていく姿など見たくはないし、芝原の健康状態は俺の生死に直結する。  こんなヤツ大嫌いだし、無事に脱出し果せたならば、警察にでもなんでも突き出す気ではいても、さすがに死んで欲しいとは思っちゃいない。  だから休みがある事に関してはほっとした。  でも勿論、手放しでも喜べない。 「……そう。何か予定とか、あんの」  ちまちまと弁当を突きながら、小声で問い掛ける。  バレンタインやらホワイトデーやらと違い、ゴールデンウィークは何をしなきゃいけないという風習がないわけで、どんな突拍子もない事を言い出されるのかと俺は戦々恐々だ。  この年になってまさか端午の節句もないだろうし……いや、正月の事を考えると、粽やら柏餅やらは用意してくるかもしれないが。どちらも余り、口に詰め込まれたくない食べ物だ。 「特に考えてないけど、ミツルは何かしたい事あるの?」  身構えたわりに、微笑みを浮かべた芝原の返事は至って真っ当なものだった。  このシーンだけ切り抜けば、本当に、まるで休みの予定を吟味する恋人との会話のようだ。  当然、そんなものは幻想でしかない。 「じゃあ……外に……」 「外は、駄目だよ」 「…………」  外出の許可は、未だに下ろす気はないらしい。  しかし絶対に許さないだとか、永遠にこのままだとかも言われていないわけで、時が経てば、外に出る事も可能なのかもしれない。  ……時が経てばって。  俺は一体いつまで、ここにいる気だ。 「他には? 部屋で出来る事なら考えるけど」 「他ったって……」  芝原とは違い、俺は不本意ながら毎日が休日だ。どうせ外にも出られないのだし、特にこれといった希望もない。  かと言って芝原に任せてしまうのも、不安だ。 「ああ……じゃあ、見たい映画があって……DVDとか……」 「ごめんね、うちテレビないからそれも無理。パソコンもないし」  クローゼットから見える範囲や、風呂場に向かう道中にも見当たらなかったから、多分そうなのだろうとは思っていたが、本当に持っていない事が改めて分かった。  興味がないのか、金がないのか。  ……いや、必要がないのか。  俺の世話を除けば、殆ど寝に帰ってきているだけと言っていい。  あとは何があるだろう。読書なんてガラじゃないし、どうせすぐに眠ってしまう。そうなれば普段と何も変わらない。音楽関係のものも考えはしたが、それは今おかれている状況に、より落胆する結果を生むだけだろうと思い、留まった。 「……ごめん、家の中、大したもの、ないもんね」  返答に窮していると、芝原は申し訳なさそうな困り顔をした。  あたかも普通の感性があるかのような物言いだ。 「……別に」  ズルいやり方だ。  俺も強く出られない。 「……退屈しなけりゃ、なんでもいい」  そう答えるしかなかった。  ああ、そうだ。端から何も期待なんてしちゃいない。  気の遠くなるような退屈。それが1日だけでも紛れるなら、それで充分だろう。  これがいけなかったのかもしれない。  芝原の休日。  俺は朝から風呂に連れられ、入念に洗われた。尻にも指を突っ込まれた。  そういう事はこれまでもあったし、上機嫌なのは久し振りの休みだからだろうと、楽観視していた。  それも間違いだった。  風呂から上がり、向かった先は俺の住処となったクローゼットではなく、芝原の布団だった。 「おいで」  いつも通り俺は裸で、首輪も鎖もそのままで、犬のリードのように軽く引かれると、マットレスの上に座るよう促される。  裸、布団、休日。  ……これは、まずいんじゃないのか。 「やっとその気になってくれたんだね」 「……は?」  何をどう解釈して、この答えに至ったって言うんだ。 「まあ、外に出ず、お金もかけず……ってなると、そういう事だもんね? ごめんね、すぐに気付かなくて」  鎖の端を芝原に握られたまま、ゆっくりと押し倒される。  ああ……最も手軽な娯楽って事か?  なるほどな。  俺は案外平然として、仰向けの姿勢で芝原の顔を見ていた。  背中の下が4ヶ月振りに硬くないというのは、抗い難い心地良さだ。起き上がる事は酷く億劫だ。  それに、いつかこの日は来るだろうとも常々思っていた。  日々びくびくして過ごすなら、さっさと終わればいいという気持ちも、なくはなかった。  そりゃあ、今すぐ逃げ出す事が出来るのなら、それが最善なのだが。 「…………あんま、無茶な事は、するんじゃねえぞ……」  かと言って歓迎出来るわけもなく、怪我をしたり吐いたりするような事態だけは避けてくれと、弱々しく訴えるのがやっとだ。 「うん、優しくするよ。初めてだしね」  あとはもう、芝原の機嫌を損ねないよう、努めるのみだ。  大人しくしていると、芝原の顔が近づいてくる。  本当にいつも、草臥れた顔をしている。  たまの休みの日くらい、休めばいいものを。  唇に、芝原のカサついた唇が触れる。俺はなんの感慨もなく受け止める。唇は頬に触れ、顎に触れ、首輪で擦れた首筋に触れ、一層薄くなった胸に触れ、浮き上がった肋骨を過ぎ、貧弱な腹筋を撫で、そうして漸く、まだ萎れたままのペニスへと到達した。 「ぅ……」  眉間に皺を寄せ、行き場のない声が僅かに口から漏れた。  こんな事は既に何度もされているが、今が1番、恥ずかしかった。  さあこれからセックスしますよと宣言されたも同然であり、何より、明る過ぎた。  クローゼットの簡素な照明とは違う。掃き出し窓から日中の日差しが降り注ぐ、眩いばかりの室内だ。  夜間ではなく、カーテンも開いている。外の様子を窺なら絶好のチャンスだ。  でも今、芝原を突き飛ばせば、確実に怒りを買う。  窓の外への興味を抑え、視線をゆっくり芝原へと戻した。  美形だとかハンサムだとか言う顔立ちではないが、飛び抜けて不細工というわけでもない。もう少し健康的な生活をして、肉をつけてクマを消せば、そう悪くない素材だろう。  なんだって俺なんかに執着するんだろうか。そんな事すらも、俺は知らない。 「ふ、ぅ……っ」  考え事をしている合間にも芝原は積極的にペニスに舌を絡ませており、唇で扱かれると容易く勃起してしまった。  これほど不健康極まりない暮らし振りでありながら、下半身だけは無駄に元気だ。 「ぁ、あぁ……」  ぴちゃぴちゃくちゅくちゅという艶めかしい水音と、俺の吐息ばかりが部屋に響く。  ペニスが硬く反り返ると、芝原は玉まで舐めしゃぶってから俺の脚を開かせ、奥まった窄まりにまで舌を這わせた。  全く臆する事なく舌が差し込まれ、同時に指が挿入される。  ここまでは、既に繰り返し経験した行為だ。 「っひ、ぁう、ぅ……っ」  故に、どこをどうされると弱いのか、芝原も、俺も、知るところだった。  相変わらずフェラさせられるのは気持ち悪いし、犯されたいだなんて1ミリも思ってはいないけれど、前立腺を刺激される快感は、最早誤魔化しようがなかった。  ともすると「もっと」だなんて、口走ってしまいそうになるくらいには。  それだけは口にすまいと今日も決意を固めると、芝原の笑う気配がした。 「最初の頃に比べると、随分柔らかくなったね。自分でもしてた?」 「する、わけ、ねえっ……」 「そうなの? じゃあミツルの中を知ってるのは、俺だけなんだね」  キモイ事言ってんじゃねえよ。  喉まで出かかった反論も封じ込める。  沈黙してしまえばいい事を、俺は次第に学んでいた。  黙っていれば、芝原が勝手に都合のいいように解釈してくれる。  それはそれで暴走し兼ねないから、深刻な危険を感じた時には口を挟むし、そうなるとやっぱり、機嫌を損ねる事にはなるのだけれど。とにかく、無暗やたらに突っかかって、痛い目を見る回数は減少傾向だ。  俺はこれから指や舌とは比較にならないものを突っ込まれるわけで、だったら少しでも苦しくない方がいい。 「あっ……、ぁあっ……」  俺はただ喘いでいればいい。簡単な事じゃないか。 「凄い、ミツル気持ち良さそう……もう入れていい?」  知るか、聞くな。  いざ犯されるとなると怯みそうになる。やるならさっさと終わらせてくれ。  半ば自棄になって、こくこくと首を縦に振った。 「うん、分かった。それじゃあ……」  衣擦れの音がして、腰を抱えられる。ひたりと、アナルに指とは違う感触のものが宛がわれた。  思わず、息を呑む。  生娘でもあるまいし、と高を括る一方で、やはり何かを失ってしまうような、取り返しのつかない事をしようとしているのではという気持ちが、爆発的に膨れ上がる。  ぬるぬると、先端を擦り付けられる。俺の相反する胸中のように、冷静さと嫌悪感が生じる。  犯される。  ――――頭のおかしい男に、犯される。  ぞわっと、総毛立った。 「ァ、ぐッ……!」  その瞬間、ぎちぎちと肉を割り開いて、芝原が侵入を始めた。  耐えられないほどではない、なんて、中途半端な痛みと共に、ペニスが捻じ込まれていく。  ……なあ、本当にいいのか? 本当に、これでいいのか?  このまま黙って、玩具のように犯されるのか?  俺まで、おかしくなるつもりか?  なんで俺が、こんな男になんて。 「…………ぃ、いや、」 「んっ……入った……分かる? ミツル。俺の、全部入ったよ?」 「い……嫌だっ……嫌だァァアアッッ!!」  今頃になって俺は、死に物狂いで暴れ始めた。  嫌だ、気持ち悪い、嫌だ、無理だ、絶対に嫌だ、なんで、なんで俺がこんな目にっ……  滅茶苦茶に両手両足を動かして、何とか脱出を試みる。半分パニック状態で、右手が芝原の頬にぶつかった。それでも構わずに、振り回す。 「……ミツル」 「ヒッ……!」  恐ろしいほど低い声で俺の名を呼ぶと、首に繋がれた鎖を一気に引かれる。  拘束力以上に、恐怖心で全身が竦んだ。振り上げた手は固まったまま、指先ひとつも動かない。  こうなるともう、発作のようなものだ。平静を保とうとして、けれどふとした瞬間に爆発してしまう。  そしてそれは、芝原の発作も引き起こす。  ああ……やってしまった。 「優しくするの、気に食わなかった?」  鎖を手に巻き付けて短くすると、芝原は首の真横に手をついた。  ぐっと、喉が締め付けられる。 「芝原っ……苦しい……」 「そういうのがいいんでしょ? なんだ、最初だからって気を遣ったのに」 「ち、がっ……!」  完全に気道を塞がれたわけではないものの、あっという間に顔が熱くなっていく。  とにかく苦しくて、喋る事もままならない。 「違う? 何が? もしかしてミツル……初めてじゃないの?」 「は、ぁ……っ?」  ただでさえ身勝手な解釈をする芝原は、俺の言葉が足りなくなったせいで余計におかしな理解をし始めた。 「そっかぁ、処女じゃなかったんだ? じゃあ物足りないよね」 「なに、をっ……ッ!」  否定したいのはそこじゃない。いや、何もかも否定したい。  だが反論はおろか、首輪ではなく、伸びてきた芝原の手が俺の首を絞め、今度こそ呼吸を奪われた。 「ッ、ァ……ッ!」 「ほら、やっぱり、凄く締まる……大丈夫だよミツル、何人咥え込んでようが嫌いになったりしないよ? これからは俺だけが愛してあげるよ?」 「ぐッ……、……!」  苦しくて苦しくて死にそうなのに、芝原は構わずに嬉々として腰を振り始めた。  深く穿たれる度に目の前がチカチカして、段々周囲の音が遠のいていく。苦痛も快感も他人事みたいに思えるのに、酸欠の頭と、股間にばかり血が集まっている事だけが分かった。  がつがつと掘られると視界が揺れて、気持ちが悪いのに、気持ちがいい。  ヤバい薬でも使ったら、こんな気分なんだろうか。  体が、割れそうだ。 「――――ッは……! っは、……っ……」  いつの間にか、首が解放されていた。大量に送り込まれた空気が肺を強引に広げ、その痛みに我に返る。  わけが、分からなかった。  たった今、自分の身に起きた筈の一連の出来事が、思い出せない。 「気持ち良かったね、ミツル」  やけに満足そうな、芝原の声。  ずるりと、何かが抜け出ていく。排泄にも似たその感覚は、少しだけ気持ちがいいと思わない事もなかった。  ぐったりと、四肢の力が抜けていく。 「すぐに出ちゃった。ミツルもこんなに出して、溜まってた?」 「え……」  芝原の指先が、俺の腹の上でくるくると踊る。何かを、塗り広げるようにしながら。  それが自分の放った精液だと気付くのに、数秒はかかった。 「俺……イッた……?」 「うん。こんなに」  芝原はやはり嬉しそうな顔で、腹の上の精液を掬ってみせた。  射精した感覚なんてなかった。死にかけると本能的に勃起したり射精する事があるらしいが、それなんだろうか。  ……でも、何が作用して射精に至ったかなど、関係がない。  俺は芝原に犯されて達した。  その現実が全てだ。 「ナカだけでイくなんて、ミツルはやっぱり淫乱なんだね。それとも、俺のがそんなに良かったのかな」  予想通りに、芝原はお得意の都合のいい解釈を始める。ついさっき俺の首を絞めた事など、まるで意に介していない。  ほら、こいつは自分の事しか考えちゃいない。  このある意味ポジティブな思考を以てしても補えない、あからさまな拒絶に対しては、即座に暴力による制裁だ。  俺がセックスする気になるのを待っていただって?  そんなの、選択肢でもなんでもない。  しない、という手段を取れない以上、主導権は全て芝原のものだ。 「いやらしいなあ……こんなに脚広げて、お尻もまだヒクヒクしてる。あはっ……ほら、俺が出したやつ、出てきた」  脱力しきって投げ出したままの脚を誘惑だと認識した芝原は上機嫌で、事後の実感が湧かないアナルの縁に指をかける。  ぐちゅ、と卑猥な音が聞こえた。芝原の目には、さぞ淫猥で愉快な光景が広がっている事だろう。  痛い思いをしたくなければ、唯々諾々と従う事だ。  こんな、得体も素性も知れない男に?  俺の何もかもを捨てて?  承服出来るわけがない。  だからと言って、いつまでも抗い続ける気力もない。  では何が正解だ。俺はどうするべきだ。  …………ああ、窓だ。窓がある。  頭の上、眩しい日差しの降り注ぐ方を見る。  ここが何階か知らないが、掃き出し窓の先ならばベランダかバルコニーだろう。落ちる心配はない筈。そこから助けを呼んでみようか。低層階なら飛び降りてもいい。全裸である事など、この緊急事態では些事だ。一生監禁されるくらいなら、不審者として通報された方がまだ未来はある。  たとえ高層階だとしても、飛び降りてしまおうか。死ぬまで監禁されるのと、今ここで死ぬのは、どっちが楽だろう。  ……それもいいな。そうか、死ねばいいのか。  そう思う一方で、そんな事出来やしないのも分かっていた。  俺にそれほどの度胸があったならば、こんな温い監禁生活に甘んじている筈はなかった。 「ん……」  芝原の指は、いつしか本格的に俺を勃たせにかかっていた。  精液塗れの手で扱かれると、容易く勃起した。 「ミツルも1回くらいじゃ足りないでしょ? 今日は時間もたっぷりあるし、何度でもしてあげるね」  俺の答えなど当然待たず、芝原は早くも俺の腰を抱えていた。  また、犯されるのか。これから何度も、ペニスを突き入れられて、精液をぶちまけられるのか。  ……気持ち悪い。  それなのに俺の体はさして拒むでもなく、芝原を受け入れる。  また、俺の中に、芝原は入り込む。 「……ぁ……あぁ……」  抽送に合わせて、自分じゃないみたいな声が漏れる。  芝原だけでなく、最早己の肉体にすら吐き気がする。  この行為はなんだ。  セックス? レイプ? ただの暴力? 本能? それで? 分類出来たからって、何? この状況の何かが変わるのか?  頭の中はぐちゃぐちゃで、体だけが馬鹿みたいに率直な反応を示す。  早く、終わればいいのに。  芝原の手が、再び俺の首へと伸びる。  初めて訪れた休日は、退屈な日常よりも、果てしなく長いものとなった。

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