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5-⑤

「本当はこの場で脱いでほしいけど、無理よね。向こうにある控室で、このシャツとスカートに着替えてきてくれないかしら。なるべく早く、出来れば五分以内で。無理を言っているのは百も承知だけど、とにかく準備をしながら説明させて」  緑川が差し出した衣装に視線を落とす。白いブラウスと不規則にプリーツの入った黒いロングスカートは特殊なデザインで、一目で既製品ではないと解った。恐らくこの中の誰かの作品なのだろう。  啓介は真剣な表情の緑川と目を合わせ、次にその背後にいる笹沼と、もう一人の女性に視線を向けた。彼女たちも祈るような目でこちらを見ている。 「さあ、早く」 「ううん」  首を振った啓介に、緑川が「お願い」と懇願する。啓介は再び首を横に振り、勢いよく自分の着ていたカットソーを脱ぎ捨てた。 「違う、嫌だって言ってんじゃない。説明されなくても、なんとなく状況はわかるよ。一秒でも惜しいんでしょ? だったらここで着替える」  緑川の手にあった白いブラウスを奪い取り、袖を通して黙々とボタンを留めた。 「ありがとう」  笹沼は一瞬だけ泣きそうに顔を歪めたが、自分の頬をピシャリと叩いて切り替えた。着替え終えた啓介の衣装をチェックしながら、取っ手のついた大きなケースから針と糸を取り出す。 「里穂、立ったままでメイクできる? スカートのプリーツ調整したいから、座られると困る」 「踏み台に乗るから大丈夫。ねぇキミ、今からウィッグ付けるから、ネット被せて髪の毛潰すよ。せっかく綺麗にセットしてあるのにゴメンね。後でちゃんと元に戻してあげるから」 「いいよ別に。ところで、これってお姉さんたちのコレクションなの?」  啓介は身を委ねながら、里穂と呼ばれたヘアメイクらしき女性に尋ねた。 「これはねぇ、桜華大名物の学生コンテスト。学園内コンペで勝ち残った七人が、順位を競うショーなの。今回のテーマは『制服』でね、それぞれ五着ずつ制作して審査して貰うんだ。今キミの足元でスカート直してる彼女が、勝ち残った七人のうちの一人よ。私はヘアメイクで手伝ってるの」 「なるほどねぇ」  先ほど「ハンバーガーショップの制服みたいだ」と思ったのは、あながち間違いではなかったらしい。納得しながら、次に浮かんだ疑問を啓介は口にする。   「この衣装を着る予定のコはどうしたの?」 「衣装に着替える寸前に、貧血で倒れちゃってさ。今日のために無理なダイエットしてたみたい。その上、極度の緊張で……練習はしてたんだけど、何しろモデルもここの学生だから素人同然だしね。そんなワケで、緑川先生に急遽代わりを探してもらったの」  作業の手を止めないまま、今度は笹沼が答えた。

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