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 早速議論が始まって、啓介は嬉しくて吹き出した。色の組み合わせだとかデザインだとか、学校では興味無さそうに聞き流されてしまう話題も、彼らなら飽きることなくいつまででも付き合ってくれそうだ。 「いいんじゃない。今日は初顔合わせの記念に、三人お揃いで黒にしたら? あ。松永くん、戻って早々悪いんだけど、永遠と快くんの爪、黒に塗ってくれる?」  スニーカーを手に戻ってきた松永に、真由からの指示が飛ぶ。爪が一つずつ黒く塗られるたびに、自分が新しく生まれ変わるようで胸が躍った。 「さぁ出来た。それじゃ、三人とも行っておいで。健闘を祈るよ」  ネイルが乾いたことを確認した真由が、三人の背中を叩いて送り出す。  スタジオに戻ると、緑川とカメラを手にした背の高い男が談笑していた。啓介たちに気付いた緑川は、手招きをして呼び寄せる。 「三人とも素敵に仕上げてもらったわね。こちら、カメラマンの加勢(かせ)さんよ。ご挨拶なさい」  言われて三人バラバラに「よろしくお願いします」と頭を下げれば、頭上からククッと喉を鳴らす笑い声が降ってきた。 「まぁた、揃いも揃って生意気そうなの連れて来ましたね」  浅黒い肌に程よく筋肉の付いた体。顎には無精ひげをたくわえ、ほのかに煙草の匂いがする。  三十代半ばくらいに見えるその男は、自分の顎をさすりながら面白そうに啓介たちを見た。 「ようこそ新人さん。それじゃあ今から、俺とレンズ越しに喧嘩をしよう」

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