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第10話 chemistry
ぞわりと肌が粟立つ。
加勢の持つカメラのレンズが、大きな眼球に見えた。
自分の中身が何もかも暴かれてしまいそうで、目を逸らしたくなる。
「喧嘩をしよう」という物騒な言葉に、啓介たちの空気が揺れたのを察したのかもしれない。加勢は可笑しそうにニヤリと口端を上げた。
「まぁそう構えんなって。とりあえず三人まとめて撮るから、そこのソファに好きなように座ってくれ。最初はカメラを見なくていい。なんなら三人で気楽に雑談してていいよ」
加勢が顎でスタジオの中央を示す。
来た時には白壁しかなかった空間に、古びたレンガ模様の布が吊るされていた。そのレンガの布を背景に、真っ赤なベルベットのソファがポツンと一つ置かれている。高級感のあるアンティークなデザインはどこか退廃的で、まるでヴァンパイアの眠る古城のような雰囲気だ。
「なんか、吸血鬼が住んでそうな城って感じだな」
快はそう言いながらスタジオの中央に進み出て、ソファの真ん中を陣取り足を組んだ。自分と快の思考回路が似ていることに、啓介は少し複雑な気分になる。無言のまま啓介もソファに近づき、先に座っている快を見下ろした。
二人掛けのソファの真ん中に居られては、もう座るスペースは残されていない。
「ねぇ、どっちかにつめてくれない?」
「ヤダよ。俺が王様で、お前らは下僕って感じで行こうぜ。両側に控えろよ」
「そんなのお断り」
啓介は言うと同時に快の右側に無理やり体を捻じ込んで座った。「何だよオマエ!」と抗議しながらも快が思わず身を引いたので、無事に自分のスペースを確保する。
啓介は肘掛けに腕を預け頬杖をつき、勝ち誇ったような視線を快に送った。苦々しい表情で快が啓介を睨み返す。
その間もシャッターを切る音は絶えず続いていた。
「キミはそこでいいの?」
啓介は体をのけ反らせ、背もたれの後ろ側に立っていた永遠に問いかけた。永遠は考え込むように首を少し傾ける。
「そうだね。それなら私は、二人の上に乗ろうかな」
どういう意味かと尋ねる前に、永遠はソファの後ろ側から前に回り込んだ。中性的な顔でにっこり微笑み、遠慮なく啓介と快の膝の上に仰向けに寝そべる。
予想外のことに呆気に取られ、つい快と顔を見合わせてしまった。啓介も快もそれに気づいて、お互いツンと澄ましてそっぽを向く。
快が気まずさを誤魔化すように、不機嫌そうな声を出した。
「永遠、なんなんだよオマエ。降りろよ」
「だって私の座るところないじゃん」
膝に頭を乗せている永遠が「ねえ?」と同意を求めるので、啓介は困惑気味にうなずいた。永遠は満足そうに目を細め、加勢に向かって「バラの花びら降らせて欲しい」と呼び掛ける。加勢がカメラを構えたまま豪快に笑った。
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