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10-②
「男三人って聞いたときはむさくるしいと思ったが、案外絵になるな。バラの花びらか。用意しときゃよかった」
「男三人?」
啓介と快の声が重なる。
「なんだ、永遠は女の子じゃないのかよ。終わったら連絡先聞こうと思ってたのに。なんで自分のこと『私』って言ってんの」
「ちょっと……」
快の無遠慮な発言に、啓介は眉をひそめて窘 める。まるで自分に向かって言われているようで、どうにも居心地が悪かった。
「『私』って言うのは、自分を表す言葉でピンと来るのがないから仕方なく。あ、でも私はトランスジェンダーと少し違うの。Xジェンダー」
「何それ」
間髪入れずに聞き返す快に、永遠はクスクス笑う。
「Xジェンダーにも種類があるから、一言じゃ説明できないな。私は『中性』なの。お家に帰ったら調べてみてよ。ねぇ、お兄さんも私と一緒でしょ?」
膝の上から真っ直ぐに見上げられ、啓介は固まる。
永遠の発したものは、以前検索した時に引っかかったワードなので知っていた。Xジェンダーの中性は、自身を男と女の中間だと認識している人を指す。
啓介は永遠の目を見ながら、静かに息を吐きだした。
「僕はちょっと違う。多分、Xジェンダーの『不定性』だから」
『二つの性の間で自認する性が揺れ動く』その一文を見た時には、我ながら面倒臭いなと思ったものだ。
誰にも。
直人にさえ言っていない告白は啓介なりに覚悟が要ったが、永遠は「そっかぁ」とさっぱりした答えを返しただけだった。
それはまるで目玉焼きに何をかけるかを問い、塩という返答を聞いたような、そんな気軽さだった。何でもない事のような反応がなぜか嬉しくて、啓介は思わず永遠の頭をよしよしと撫でる。
「じゃ、そろそろ目線もらえるか。……そういや、お前らの名前まだ聞いてなかったな」
永遠が少しだけ上体を起し、カメラに目を向け「私は、永遠」と名乗った。それに続いて快が軽く手を挙げる。
「俺は快。母親は有名なスタイリスト」
「ああ、知ってる。ルーシーだろ? 快は本名のまま活動するのか」
「んー、多分」
加勢が残る啓介にピントを合わせた。啓介は逡巡しながら天井をぐるりと見回したが、結局なにも思い付かない。
「僕は、まだ決めてない」
「そうか、お前は名無しか」
レンズ越しに加勢が、意地悪く告げた。
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