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10-⑥

「お兄さんのこと、快くん歯を食いしばって見てたよ。きっと凄く悔しかったんだと思う。だってお兄さん、今日が初めての撮影と思えないくらいの迫力だったから。私も快くんも、お兄さんからずっと目が離せなかった。ドキドキし過ぎて心臓が痛くなっちゃった」  永遠が胸に手を当てたので、「これで心臓、二つ目かな」と啓介はこっそり微笑む。 「ね、お願い。お兄さん、うちの事務所に来て」 「いいけど、僕は積極的に芸能活動するつもりないよ。メリットある時はやるかもしれないけど。大学最優先でいい? モデルの仕事に足引っ張られてデザイナーになれないんじゃ、本末転倒だからさぁ」  永遠にではなく、倉持に向かって告げる。生意気な物言いにも倉持は笑顔を崩さず、「もちろんです」と頷いてみせた。 「その辺の事情も緑川先生から伺っております。ひとまずメインの仕事はブレイバーの専属モデルで。その他の依頼が来た時には、その都度話し合って決めましょう。無理は絶対にさせません」  潤んだ目で見上げる永遠と熱意のこもった倉持の眼差しに圧倒され、啓介は少しだけたじろぐ。緑川が「急がなくても大丈夫よ。お母様と相談してから決めたらいいわ」と助け船を出してくれたが、啓介は首を横に振った。 「ううん、いいや。今日決めちゃう。だって僕のワガママ聞いてくれるところなんて、そうそうないだろうから。倉持さん、それじゃぁよろしくお願いします」 「こちらこそ! 正式な契約はまた後日改めて。梅田くんの担当は、責任もって僕が務めますのでご安心くださいね」  倉持が満面の笑みで右手を差し出したので、啓介もその手を取った。永遠が「私も!」とはしゃぎながら、啓介と倉持の手の上に自分の手を重ねる。

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