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10-⑦

「おや、事務所が決まったのかな? それは良かった」  穏やかな声がしたのでそちらに目を向けると、海藤が笑顔で近づいてくるところだった。その背後には、着替えを終えて渋々海藤に連れてこられた快の姿もある。 「君がブレイバーの専属モデルを引き受けてくれて嬉しいよ。今日の撮影も素晴らしかったね。きみには天賦の才がある」  海藤が手放しで啓介を褒めた瞬間、快の表情が酷く歪んだ。そこから読み取れるのは、悔しさよりも焦燥。しかし啓介の方も、快と同じような表情をしていたかもしれない。  啓介は快の全身に目を走らせ、その私服姿にハッとした。  白黒の半袖ボーダーシャツに黒のワイドパンツ。サスペンダーは、左側だけわざと外している。ボーダーシャツとアームカバーを繋ぐのは武骨な安全ピンで、水色の安っぽいおもちゃの指輪がとんでもなく洒落て見えた。頭には黒のソフトハットを被っていて、カジュアルになり過ぎない絶妙なバランスだ。  死ぬほど自分好みのコーディネートなのに、自分には逆立ちしても真似できそうもないアイテムのチョイスだった。  何故そこでその色を選べたんだ。何故そのアイテムを思い付けるんだ。  快のセンスに嫉妬して、気付くと拳を握り締めていた。  啓介と快の間に散った火花が見えたのか、海藤が顎に手を添えて静かにうなずく。 「君たちはよく似ているね。似過ぎて磁石の同極みたいだ。永遠が上手く繋いでくれるかな。……ブレイバーで起こる化学反応、楽しみにしているよ」

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