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11-④
「ごめん……」
ようやく口から出たのは、言い訳を諦めた弱々しい声だった。その言葉を耳にした瞬間、直人は自転車を乗り捨て、両手で啓介の襟首を勢いよく掴む。その拍子に自転車が派手な音をたてて倒れ、雑誌は足の上にバサリと落ちた。
「なんで」
直人はそう言ったきり口を閉ざし、啓介を睨みつける。悔しいのか哀しいのかわからない表情だったが、腹を立てている事だけは理解出来た。ただ、「なんで」と問いたいのは啓介の方も同じだった。雑誌に載ることを黙っていたのは事実だが、ここまで怒りをぶつけられる覚えはない。
「機会を見て話そうとは思ってたけど、なかなか言い出せなくてごめん。でも僕、この道へ進むことに決めたから。大学も桜華大を目指すことにした」
「事後報告かよ。ホントはどうせバレないと思って、最初から言うつもりなかったんじゃねぇの?」
強く襟首を締め上げられ、啓介は苦悶の表情を浮かべた。腕を掴んで引き離そうとしても、直人の手にますます力が入るだけで余計に苦しくなる。直人は鼻先が触れそうなほどの至近距離から、啓介を責め立てた。
「『なかなか言い出せない』なんて笑わせんな。フツーに言やいいだろうが。隠してんじゃねぇよ。俺はそんなに信用できねーか」
「違うよ。隠すつもりなんてなかった。でも、直人は絶対反対するでしょ。言うタイミング、難しかったんだよ」
「ふざけんな!」
噛みつきそうな勢いで直人が叫び、それと同時に右手が振り上げられる。殴られると脳が理解するより先に、啓介は咄嗟に腕で覆うように顔を守った。
啓介の顔面めがけて勢いよく落ちて来た拳が、ガードしている腕に強かに打ち込まれる。重い一撃に、啓介の体は横に吹き飛んだ。
アスファルトの上に投げ出され膝をついた啓介は、すぐに上体を起こし、怒りを込めて直人を睨みつけた。
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