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11-⑤
殴られた腕はジンジン痺れるように痛むが、顔はどうやら無事のようだ。ホッとしながら息を吐くと、今度は腹の底から怒りが湧いてくる。
来週は撮影があるというのに、もし腫れ上がったり傷が残るようなことになれば、どれだけの人に迷惑がかかるか。
少し青ざめたような直人を睨みながら、啓介はゆっくり立ち上がる。
「お前さァ、なんなの? 確かに黙ってたのは悪かったかもしんないけど、それって殴られる程のこと? 思うんだけどさぁ、言っても言わなくても、こんな展開になってた気がするよ」
本当は今すぐにでも掴みかかって殴り返したいところだが、万が一にも怪我をする訳にはいかない。啓介は刺すような視線で牽制しながら、じりじりと後ずさった。その表情を見た直人が、ははっと感情のこもっていない笑い声をあげる。
「その目。雑誌に載ってた啓介のまんまだ。きっと誰も気付かないんだろうなぁ、アレがお前だって。ま、お前と喧嘩したことあるヤツは『似てるな』くらいは思うかもしんねーけど。でも、そんな奴らはリューレントなんか買わねぇから、やっぱり誰も気付かないか。あーあ。カッコよく写ってるなぁ。いいねぇ、華やかで順風満帆な未来が約束されてて」
足元に落ちた雑誌を拾いあげ、パラパラめくって直人は頭を振った。手にした雑誌から気だるそうに視線を上げ、無表情のままそれを再び投げ捨てる。
あえて神経を逆撫でするような行為に、啓介は歯噛みした。挑発に乗らないよう深呼吸しながら、気持ちを落ち着けるために空を見上げる。
もう、いつ雨粒が落ちてきてもおかしくないような黒い雲が、風に流され頭の上を横切っていった。夏にしては吹く風がどこかひんやりしていて、ついでにこの場の空気も少し冷ましてくれないかと願う。
「ほんとムカつき過ぎて吐きそう」
顔をしかめた直人が、みぞおちの辺りを大袈裟に抑えた。当てつけのような仕草に、啓介は呆れながら冷めた目を向ける。
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