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11-⑦

 啓介が「解る」と口にしたのを、同情や慰めと受け取ったのかもしれない。直人はどうせ解かりっこないと、半ば諦めたように嗤った。 「テキトーなこと言ってんじゃねぇよ」 「適当じゃないってば」  どう言えば伝わるのだろうと、啓介はもどかしくて自分の着ているシャツを皺になるほど握り締めた。脳をさらけ出して思考を読んで貰えたら、どれほど楽か。文を組み立てようとしてもどの単語もしっくりこなくて、選んだ端から捨てていく。  懸命に言葉を探し、酸欠の金魚のように口を開いたまま直人を見た。直人の目は睨んでいてもどこか縋るようで、ジッと啓介の次の言葉を待っている。  啓介は大きく息を吸って呼吸を整えた。例え伝わらなくても、考えていることを片っ端から喋っていこう。  そう覚悟を決めて声を出そうとした矢先、背中に小石のような硬いものがコツンと当たった。それは頭に、肩に、頬に降り注ぎ、啓介は頭上でガラスでも割れたのかと慄いて身を縮める。 「うわッ。マジかよ」  目の前の直人も、手をかざして同じように身をすくめていた。咄嗟に状況が理解できず立ち尽くしていると、一際大きく雷鳴が轟いた。バラバラと空から落ちてくる冷たい塊が容赦なく体を打ち付けてきて、啓介はたまらず悲鳴を上げる。 「い、いった。痛い痛い!」 「啓介、こっち」  直人に腕を引かれ、啓介はアパートの階段の下に身を滑り込ませた。ビー玉よりも大きい氷の粒が、次から次へ落ちてくる光景に目を丸くする。カツンカツンと弾けるような音が辺りに響いて、啓介も直人も少しのあいだ呆気に取られた。 「なにこれ、雪じゃないよね」 「あぁ、(ひょう)だな」 「真夏なのに氷が降ってくるなんて、おかしくない?」 「何言ってんだ、雹は夏の風物詩だぞ。俳句の季語にもなってんだから」  へぇ。と感心しながら、啓介はアスファルトに叩きつけられて砕ける氷を見つめる。

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