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11-⑩

「僕ってそんなに攻撃的かなぁ」 「敵認定したら容赦ないだろ。いつもふわふわしてっから、初めて喧嘩してるの見た時『ギャップすげぇ』ってびびったぞ」 「あはは。これからは、喧嘩売られても買わないようにしなきゃ。直人、ボディーガードよろしくね」 「おう。まかせとけ」  頼まれてすぐに答えを返した直人が胸を張る。それから視線をやや下げて、手の中にある湿って表紙が少し歪んだリューレントを見た。 「来月もこの雑誌に載るの?」 「それには載らないけど、ブレイバーって新しい雑誌の方では毎月出番があると思うよ」 「じゃあ毎月買おっかな、その雑誌。……ところで、他の奴にも話すのかよ、この仕事のこと」 「まさか。バレないためにメイクしてんだから、誰にも言わないよ。この先もずーっと。知ってるのは直人だけ」 「そっか」  嬉しさを隠しきれないというように、直人の口元が緩む。啓介は綺麗な弧を描く唇に人差し指を当て、「二人だけの秘密ね」と目を細めた。直人が息を呑み、片手で顔を覆う。 「お前、時々めちゃくちゃ可愛いよな」 「時々ぃ? いつも可愛いでしょ」 「いや、まぁ。なんつーか、たまに理性吹っ飛びそうであぶねーんだよ」  今日の直人はあけすけな上に饒舌だ。啓介が調子に乗って「ほうほう、それで?」と揶揄うように身を寄せたら、頭を掴まれ押し戻された。 「近いっつーの。お前との距離は今のままが一番いい気がするから、別にどうもしねえよ」 「ふーん、そっか。僕もまぁ、その意見には賛成だけど」  そうして再び二人並んで、弱まってきた雨を眺める。直人は雑誌を濡れないようにTシャツの中に潜り込ませ、服の上からそれを押さえた。 「んじゃ、帰るわ」  啓介が返事をするよりも先に階段の下から飛び出して、倒れた自転車を起す。ペダルに足をかけて漕ぎ出した瞬間、直人がこちらを振り返った。 「啓介、お前は中途半端なんかじゃねぇよ。俺、応援してっからな!」  それだけ言うと勢いよくペダルを踏み込んでスピードを上げた。啓介も雨の中へ駆け出し、離れていく背中に向かって叫ぶ。 「ありがとう!」  直人は振り返らなかったが、きっと聞こえただろう。  やっぱりこれは恋だったかもしれないなぁと思いつつ、この感情の正体は暴かないまま、胸の奥の箱に鍵をかけて大事に仕舞っておくことにした。    雲の切れ間から、スポットライトのような光が差している。  雨もじきに止むだろう。  虹でも出たら最高なのになと、啓介は空に向かって両手を伸ばした。

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