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第12話 Frozen Rain

 二度目の撮影場所も、前回と同じ博雅出版のスタジオだった。今回は緑川の付き添いは無かったが、一度来ているので迷うこともなく無事にたどり着く。  始発に揺られてここまで来た啓介は、欠伸を噛み殺しながらスタジオに足を踏み入れた。流行を取り入れつつも個性的なコーディネートに身を包んだモデルたちが、既に撮影を開始している。モデルの人数も多く、スタジオ内は活気に満ちていた。おそらく彼らは都内近郊に住まいがあり、もっと早い集合時間でも応じることができるのだろう。  羨ましいなぁと思いつつぼんやりモデルたちを眺めていたら、カメラを構える加勢を見つけた。眠くて重かった瞼が一気にパチリと開く。  目の端で啓介を捉えたのか、加勢がカメラを降ろしてニタリと口の端を上げた。 「よお、名無し。眠そうだな」 「今、思いっきり覚めた」 「そりゃよかった。今日も期待してるぞ、前回よりもイイの頼むな」  それだけ言うと、加勢は再びレンズを撮影中のモデルに向けた。「期待している」という言葉が、ミシリと音を立ててのしかかる。簡単に言ってくれるよな、と思いながら更衣室へと向かうと、ドアの前で倉持が待っていた。倉持は啓介に気付き、嬉しそうに手を振る。 「おはようございます、梅田君。朝早くて大変でしたよね。今度から前泊にしましょうか。電車が遅れたら、撮影に間に合わない可能性もありますもんね。前日から都内に居れば、早朝からの撮影にも参加できますし」  先ほど早くから来ていたモデルたちを羨ましく思っていた啓介は、心の中を読まれたようで何だか気恥ずかしくなった。それでもその申し出は有難かったので「お願いします」と素直に答える。すると、倉持の背後からひょこっと永遠が顔を出した。 「なになに、お兄さん今度から前泊? それなら私の家においでよ!」  永遠が目を輝かせながら啓介の手を取り、思い出したように「あ、おはよう。今日もよろしくね」と天使のような笑顔を見せる。  永遠もまだ私服のままで、目玉のイラストが散りばめられた個性的なTシャツに黒のデニム、腰にはグレーのタータンチェックのシャツを巻いていた。  中性的な永遠のイメージから勝手に可愛い系の私服を想像していた啓介は、永遠の全身に目を走らせ、意外そうな顔をする。シンプルだがある意味とても男の子っぽい装いだ。ただ、身に着けているアクセサリーも含めてとてもセンスが良く、垢抜けている。

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