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第4話

父さんが帰って来てからまたひと騒動あり、俺と月は部屋に閉じ込められて一晩を過ごした。 空の怒鳴り声が何度も階下から聞こえて来て、それに嗚咽混じりの声で何かを言っている母さんの声。時々、やめろとかうるさいと言う父さんの大声が聞こえた。 それぞれのベッドで毛布を頭から被り耳に手を当てていたが、ぎしっとベッドが揺れて毛布を上げると、月の泣き出しそうな顔。 「どうしたんだよ?」 「俺……怖くて。こっちで、寝ても……いいか?」 おずおずと話す月にダメというのも可哀想で、無言で毛布をグイッと上げた。 「ありがと。」 もそもそと入ってくる月に、やっぱり男二人じゃ狭いなと無理やり軽口を叩くと、そうだねと月も無理矢理笑おうとする。 が、すぐにその目から涙がこぼれ、顔をマットに沈めるようにうつ伏せになった。 「どうしたんだよ?」 肩を揺らす俺の手をぎゅっと握って、俺のせいだと呟いた。 「俺がΩだったから……だから皆が……あんな検査、受けなければ良かった。」 うっうっと嗚咽が聞こえ、肩が震えている。 俺は何も言うことができず、ただ背中をさすり続けた。 しばらくそうやっていたが、ふとΩについてよく知らないなと思い、月に声をかけた。 「なぁ、Ωってどういうのだっけ?」 俺の問いかけに月が少し顔を上げて俺を見ながら、確かねぇと答え始めた。 「えっと、俺もよくは分からないんだけど……確か、αとの性交中にうなじを噛まれると番って言うパートナーになって、男でもαとの間ならば同性異性に関係なく子供ができるらしい。あとはヒートとか言う発情期があって、その時αにだけ分かる匂いをばら撒くんだ。それを嗅いだαはそのΩと性交したくて堪らなくなって、無理矢理暴力的にと言う事件も起こりつつあるって話だよ?」 「何だ?その性交って。」 「え?そこ?えぇと、セ……ックスの事だよ……」 少し上げていた顔を再びマットに沈める。 「ああ!セックスしたら男でも子供ができるって事か!?すげぇな。ただ、ヒートが来たら、相手がいても他のαにヤられるってのはさすがにヤバくないか?」 「番になると、相手のαにしか匂いがわからなくなるんだってさ。だから、Ωはαと番う事を国は推奨してるみたい。」 「なるほどなぁ。あ、でも確か少し前にヒート抑制剤がどうのってニュースがあっただろう?」 「あれはまだ実験段階だし、副作用もわからないしで一般には出回っていないよ。それにもし売られていても、高価な薬らしいから俺には手が届かないと思う。」 月の話を聞いて、なるほどなぁと両親や兄貴の青ざめた顔の理由の一端がわかった気がした。 だが、それでも母さんがあんな泣くような話かという疑問が残った。 月は生き辛いかも知れないが、いいαと番になれればなんとかなりそうだし、それまではヒートの時にはどこかに押し込んで、俺はダチの所にでも泊まりに行けばいいんじゃないのか? そう考えて月に話すと、そうだよねと言って頷いた。 「同じ家にαとΩがいるのは、何かと不便かも知れないけれど、あそこまで絶望するような事じゃねぇよな?」 「母さん達、あまりに驚きすぎてパニックになってるだけってことかも?」 二人で顔を見合わせてぷっと吹き出した。 「なぁんだ!心配して損しちゃったなぁ!」 「明日になったら少しは落ち着いてるんじゃね?」 二人してゲラゲラ笑っていると、安心したせいか急に睡魔が襲って来た。 「やべぇ、ムチャクチャ眠くなって来た……」 「俺も……」 月が俺の顔のすぐ横で寝息を立て始める。 そのリズムに引っ張られるように、俺も静かに瞼を閉じた。

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