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第5話
「おい!陽!月!起きろ!」
暖かい毛布を剥ぎ取られてブルっと震えながら、まだ眠いと主張する瞼を何とか片目だけ薄く開けると、兄貴が怖い顔で俺達を見下ろしていた。
「どうしたんだよ?そんな怖い顔しなくても起きるって。」
モゾモゾと月と二人で上半身を起こすと、兄貴が早く着替えろと言って扉の方をチラチラと見る。
「何?扉がどうかした?」
パジャマ代わりのシャツを脱ぎ捨てながら声をかけると、兄貴が人差し指を唇に当ててシっと黙れというようにジェスチャーをする。
「いいか?今から俺の話す事を黙って聞け。今、下に国の機関とかいう奴らが来ていて、お前らを連れて行くと言って父さん達と言い合っているんだ。」
「何だよ、それ?」
月と顔を見合わせて、昨夜の俺達の想像では追いつかないほどの事の早さと重大さに目を丸くする。
しかし、すぐに二人して兄貴に向き直り声を荒げた。
「Ωだから、αだからってそんな、国が俺達の人生好き勝手できるなんておかしいだろ?!人権侵害じゃないか?」
学校で習ったばかりの言葉を使って、兄貴に食ってかかる。月も隣でそうだ、そうだと頭を大きく振って頷く。
「声がデカいって!俺だって嘘だろうって思うし、信じたくないけど、今この家で起こっている事は現実だ。だから、お前達はさっさと服に着替えてその窓から逃げろ!」
「え?!」
兄貴の言葉に月と二人で出しかけた言葉を飲み込む。
「父さんと母さんが下の連中と言い合っている間に、お前達は外へ逃げろ!ともかく今捕まらなければいい。あいつらが諦めて帰ったら、連絡するから。それまで学校の友達の家にでも隠れておけ!」
一瞬の間の後、俺と月は一気に服を脱ぎ捨て外出着に着替えると、スマホと財布を持って窓枠に足を掛けた。
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