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第13話

30分ほどかけて施設の中を歩いて一通りの案内をされた後、俺達は寮だと言っていた建物に行き、ある部屋にJと共に入った。 「こちらがあなた方の部屋になります。服はここ、それとお約束していたスマホと、勉強道具は学校で渡されますし、必要な物は寮の者に言えば用意してくれます。」 そう言って俺達に一台ずつ新品のスマホを渡すと、ソファに座ってはあとため息をつく。 「こういう仕事は他の人にやらせて欲しいんですよねぇ。大抵が予定通りにいかないし。さて、昼食までは時間もありますし、部屋の中でゆっくりしていて下さい。食事は、さっき案内した食堂に放送で連絡があったら行って下さいね?くれぐれも、逃亡なんて考えは持たないで下さいよ?ここは見ての通り、山の奥深くで逃げるのはまず無理。遭難でもしたら夜の寒さか野生動物のどちらかで死亡確定ですからね?それでは……」 ソファから立ち上がろうとするJに、俺が話は?と言って詰め寄った。 「え?あぁ、あれですか?あとでじゃダメですか?私もそろそろ部屋に戻りたいんですよねぇ……って、そんな怖い顔で近寄らないで下さいよ!ちょっと、私のガードは?」 「あんたが話すって言ったんだろう?それに、こいつらに危害を加えるような気配はないしな。」 大男が俺を見てニヤッと笑いながらJに答えた。 「まったく!分かりましたよ!話せばいいんでしょ?」 頷く俺達に向かって、Jは今までで一番大きなため息をついてから再びソファに座って口を開いた。 「いくらΩとαで運命の番だと言っても、兄弟でと言うのはさすがに倫理観っていうものがねぇ?いえ、仕方がないんですよ?抗えない絆、性欲、渇望。思いや考えなんか運命の番の前ではクソの役にもたちはしません……っと、汚い言葉で失礼。」 ふふっと笑いながらも、見えない敵を見るような視線にぞくっとする。 こいつにも色々とあったって事なのか? そんな事を考えながら、Jの話に耳を傾ける。 「一般社会ではまだΩもαも特殊な存在ですし、普通の方々に運命の番のことを言っても理解はできません。ましてや兄弟で番うなんて……そう言う事を理解している筈の科学者や医者の中にですら有り得ないと言う者達がいるほどですから、仕方ないと言えばそうなんですけれどね。」 まったくと言って舌打ちしてからソファの背もたれに頭を乗せて天井を仰ぎ見る。 「本当に、何故なんでしょうねぇ?私は、初期の頃にαと診断され、同じ頃にΩと診断された者の中に運命の番がいたので、あの抗えない、自分ではどうにもできない感覚はよく分かります。」 「Jは兄弟とかは?」 月がおどおどとしながら、呟くように小さな声で尋ねた。 「姉がいます。ただ、姉はβでしたので、今でも実家で普通に暮らしている筈です。なので、私はたった一人でこの施設の前に作られたと言うか、仮設の施設に連れて来られました。その頃はまだ検査でΩやαと診断された人も数えるほどで、連れて来られてすぐにともかくこの中から番えと並んだ人達を見せられながら言われて……私は別に男性が好きと言うわけではなかったのですが、運命の番であるΩの甘い匂いを嗅いだ瞬間、抗うとか好きとか嫌いとか好みとか考える余裕なく貪るように抱いて噛んでいましたね。」 その時の事を思い出しているようで、Jの顔が少し高揚している。そして、考えないようにしていた俺達兄弟が運命の番という現実とJの生々しい体験談に3人共、何も言えずに顔を赤くして下を向いた。 「おい、先生。さすがにお子ちゃま達にその話はマズイだろう?」 そんな俺達を見た大男が呆れたような顔をしながらJに言う。 「え?あぁ、ごめんごめん。まぁ、そう言う事で双子の両親達には出来れば子供達に検査を早く受けさせるようにって言う国からのあまり周囲には言わないで下さいねって言う文言の書かれた手紙が行ってるんだよ。そこには運命の番のことも、もしΩとαで生まれた時には、国がその子供達を引き受けるって言うことも書いてあるってわけ。君達のご両親も検査結果を知って嘆いてたでしょ?でもね、仕方ないんだよ。国だって兄弟で子供を作らせるような事を認めるわけにはいかないし、かと言って引き離してもやっぱり引き寄せられてしまうんだよねぇ、運命って言うだけあって。」 Jがねぇ?と俺達に同意を求めてくるが、俺達にはまだそのような状況はないし、聞けば聞くほどとんでもない話に3人共ただじっと黙っている事しかできなかった。 「国としても君達のように兄弟で運命っていう子達を隠すという選択肢しかなくてさ、外国も同じだから、君達はどこへ逃げてもこうやって国によって隠されて生きていくしかないって事。まぁ、もう少し研究が進めば少しは良くなるかも知れないけれど……今のところはまったくのお手上げ。でも、仕事も住居も国が保障してくれるわけだし、まぁ慣れればここでの暮らしも悪くはないよ?周囲に奇異な目で見られる事も、何か言われる事もないしね。……おっと、私が話せるのはここくらいまでかな?と言うか、わからない事だらけでこれくらいしか話せないって言うのが事実なんだけどさ。あ、空君の結果はやっぱりΩだった。しかも陽君の血に反応も出た。月君のも同じように出たから、君達が運命の番っていうことが確定したわけだ。さすがにこういう事例はほんの数例しかないから、この大部屋が使われる事はないと思っていたんだけど……用意しておいて良かったよ。さてと、じゃあ今度こそ行くね?食事の時にでも検査結果を印刷して持っていくから。食事の時間まではゆっくりと旅の疲れでも癒してて。」 何も言えない俺達に関心もなさそうにソファから立ち上がって扉に向かう。大男がそのガタイからは想像もつかないほどに俊敏にJと扉の間に割って入りながら、扉を開けてJを廊下に出した。 「なぁ!」 何か言わないとと俺が大声を上げたが、Jはもう聞こえてもいないのか振り向きもせず、大男もJに付き従って部屋から出ると、背を向けたままで扉を閉めた。 二人の靴音が消えていくのを聞きながら俺達はただただ何も言えず、重い空気が部屋を満たしていった。

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