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第14話
「なぁ、どんな服が入っているのか見てみないか?」
重い空気を追い払うように兄貴がわざと明るく大きな声で言いながら、服が入っていると言われた棚に向かって行く。
「あぁ、そうだな。どんな服が入っているのか見てみっか!ほら、月も行こうぜ!」
俯いたままでいる月の手を掴んで引っ張り、兄貴のいる方に歩いていく。
「いいよ……俺は、別に。」
そう言ってその場でしゃがみ込み俺の手を離そうとする月の手をぎゅっと掴むと、呟くように言った。
「お前が先輩の事を好きだったのは知っているんだ。大丈夫……俺はお前に手を出すことは無いよ。暫くしても何もなければ、あいつらだって俺達が運命じゃないって思うだろ?そしたら、お前は先輩に会いに行けるかもしれないし、番になれるかもしれない。だから、それまで我慢しろ。こんな体験、そうはできないんだし、先輩へのいい土産話にもなるだろ?な、今は楽しもうぜ!」
俺の言葉にはっと顔を上げると、しばらく俺の事をじっと見つめてから分かったと頷いた。
でも、俺も月もそして兄貴も、もう一生ここから出ることは無いんだという事に、頭のどこかでは気が付いていた。それでも、それでもほんの一欠片の希望にでもすがらなければいられないほどにこの現実を受け入れるのは困難だった。
それでも先ほどよりは少し冷静になって部屋をよくよく見るとかなりの広さだと分かる。
月は兄貴の側に行き、二人でこの服はイヤだの、交換しようだのとやっている。
それを見ながら、改めて部屋の間取りを確認する。今までいた扉を入ったすぐのところがリビングのような談話室になっていて、ソファとテーブル、テレビや本棚などが置いてある。
その横に少し離れてベッドが3つ。両側はシングル、真ん中だけ多分ダブルだろうか、他の二つとは明らかに大きく、天井からは病院などで見る隣から目隠しするようなカーテンみたいなものがぶら下がっている。
そのベッドの反対側には机が3つ。ここで勉強しろという事だろう。机の間に服やモノの置ける棚が備え付けてあり、兄貴と月は両側の棚をそれぞれ漁っている。
そして、その奥にはトイレとバスルーム。きちんと別々になっていて、風呂場もかなりでかい。
「真ん中が俺なの?」
両側の棚を漁っている二人に近付きながら、もしかしたら二人が遠慮して真ん中を開けているのではと思い声をかけると、兄貴がほらと机の上に置いてある紙を俺に見えるように持ち上げた。
そこには空、月が持ち上げた紙には月と書かれている。
俺も真ん中の机に向かい、やはり同じように置いてある紙に目をやると陽と言う文字が書いてある。
「どこを使うかは決められているみたいだな。まぁ、俺達のベッドも十分な広さだし、特に支障はないから、言われた通りにしておこう?」
兄貴の言葉に月もそうだねと頷く。
「二人がいいって言うならそれでもいいけど……」
そう言って真ん中のベッドにどすっと座った。
「へぇ?」
かなりいいマットなのが分かる。ここにいたいと思わせるような数々の出来事に苦笑するが、寧ろ俺はお前らの言う通りには絶対にならねぇよという反骨精神がふつふつと湧いてきた。
「絶対に運命なんかじゃないって、分からせてやる。どんないい待遇をされたって、ここには自由がない。俺は絶対にここから出てやる!」
俺の言葉に二人も手を止めてうんと力強く頷いた。
その時、昼食を知らせる放送が聞こえ、俺達は棚にあったジャージに着替えると意気揚々と部屋を出て食堂に向かった。
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