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第16話
昼食は先に来ていたJに色々と教わりながら食べた。初めての場所で緊張はしたが、それでもうまいと分かるご飯だった。
「ここのご飯、美味しいでしょ?他に食べたい物かがあれば、そこに色々と置いてあるから、勝手に食べて?お菓子とかアイス、ジュースもそこにあるし、軽食も。ちょっとしたコンビニくらいの品揃えだけど全部勝手に食べていいんだよ?」
「へぇ!」
いくら食べても食べ足りない、この時期の俺達にとっては夢のような話だった。ここにいる限りはなんの不便もないということもよく分かった。
「なぁ、言えないようなものが欲しい時にはどうしたらいいんだ?」
「んー、紙に書くとかして渡してくれる?でも、ローションやゴムなんかの必要品は、αのだから……陽君のベッド脇の棚に色々と入っていると思うよ?」
「え?何だそれ?」
「何って、君達はここにそういう事をしに来たんだよ?だから同じ部屋だし、αのベッドだけ大きかったでしょ?あ、仕切りみたいなやつね、きちんと閉めると防音になるから。どちらかとだけヤリたいって時にはあれを閉めるといいよ?あれねぇ、すごいんだよ!隣でどんなに大きな声を出しても全く聞こえないの!」
それまではなんだか天国のような場所じゃないかと思っていたが、ペラペラと喋るJの言葉が俺達を現実に引き戻した。
「やめてよ!」
椅子をガタンと倒しながら立ち上がった月の声が部屋中に響き渡り、静かに喋りながら食べていた人達が手と口を止めて俺たちを見た。
「月、いいから座れよ。」
兄貴が周囲に向かってすいませんと頭を下げる。俺はそう言いながら静かに立ち上がり椅子を直すと、月の肩を抱いてゆっくりと座らせた。
俺も静かに椅子に座ると、呆れた顔をしているJに向き直って口を開いた。
「J、俺達が運命の番なんて馬鹿げたこと、本気で信じているのか?悪いけど、俺達はそんなの全然信じていない!検査なんていうのも全く信じてねぇ!
俺達には心があるんだ!家族としては好きだけど、俺達にそういう気持ちは全くない!何もなければお前らだって俺たちをここに閉じ込めておく意味はないだろう?だから、暫くはお前達に付き合ってやるよ!その代わり、お前らも俺達が運命の番でもなく、普通の番にもなる気はないって言うことが理解できたら、さっさと俺達を両親の元に帰すって約束しろ!」
一息で言うと、Jが驚いた顔になってからぷっと笑い出した。
「何がおかしい?」
「皆さん、同じような事を言うんだなって思って。ここにいる方達もあなた方と同じように家族から引き離され、連れて来られた方達です。兄弟や双子ですから、やはり初めは気持ち悪いとか馬鹿馬鹿しいとか言っていたんですけどね……皆さん、ここにい続けていますよ?この意味がお分かりになりますか?」
ふふふと笑って俺たちをゆっくりと見回す。
Jの話が聞こえて居た堪れなくなったのか、数人の人々が急いで席を立つと食堂の出口に向かおうとした。しかし、Jの声がそれを止めさせた。
「そこの双子、こちらへ!」
あと数歩でこの部屋から出ていけそうになっていた顔のそっくりな双子と言われた二人がおそるそおそる、俺達の方に振り向く。
「何ですか?」
相手を庇うようにして立った男性がJに向かって口を開いた。丁寧な言葉とは裏腹にその目は俺たちに対して何故か敵意を持ったギラついたものだった。
初対面で敵意を感じるなんて、一体何だってんだ?
訳もわからずに、それでも黙って俺は二人のやり取りを見守った。
「君じゃないよ、Ωの方。ねぇ?君、そろそろヒートの時期だって検査に出てたよ?どうする?薬使う?それとも……」
「やめて……下さい……」
泣きそうな声でしゃがみ込むΩと呼ばれた方を心配するように抱き抱えると、男性は失礼しますと言って二人で出口に向かおうとした。
「捕まえて!」
Jの言葉にビクッと二人が怯えて駆け出そうとするが、どこにいたのか例の大男が数人の男達を引き連れて食堂に入って来ると、二人を難なく捕まえて俺たちの席に連れてきた。出口に向かおうとしていた人々も、男達に促されて席に座る。
「全く言うことを聞かない人達ですねぇ。ここから出て行っていいなんて言っていないし、答えも聞いていませんよ?全く君たちには本当に困ったもんだねぇ。仕方ないか……薬、ちょうだい。」
手を出したJに大男が胸ポケットから錠剤を取り出して、差し出されたJの手に乗せた。
「君達、まだ番になっていないんでしょ?結果を信じざるを得ないっていう事は君たちもわかっているはずだよね?前回のヒートまでは許すって言ったけど、もう時間切れ!ちょうどいいからさ、この子達に教えてあげようよ?ヒートと運命の番ってやつのことをさ。」
Jが何をしようとしているのか分からず、俺達はただただ呆然と目の前で繰り広げられている状況を見続けるしかなかった。
「っざけるな!いくら運命の番だとしても、俺達は双子だ!絶対にそんな事はしない!」
大男に押さえつけられている方の男性が大声を張り上げる。しかし、食堂の中にいる誰一人、彼らを助けるどころか動く事すらなく、椅子に座り口をつぐみ下を向いたまま。
「この上の物を片付けて下さい。」
はっとしてテーブルを見ると、Jに命令された数人の男が俺たちの食べ終わった食器などを片付けて、テーブルを清潔にする。
「テーブルをくっつけて、いつも通りに毛布を……」
Jの言葉に男達が俺達を椅子ごと他の席にどかしてJの命令通りに慣れた手つきでテキパキと動いていく。
「やだ……嫌だ……たすけてよぉ!」
今まで黙っていたΩの方が突如声を上げて、男達から逃れようとジタバタと体を動かす。しかし、それを意にも介さずに数人がかりでテーブルの上にΩを抱え上げてうつ伏せに押し付けると、Jが大男から受け取った薬を嫌がるΩの頬を男に掴ませて口を開けさせ、その中に放り込んでごくっと喉が鳴るまで口を手で覆った。
「さて、どうなるんでしょうね?あ、番になっていないαはいますか?いませんね?じゃあ、陽君には悪いけど、ちょっと体を拘束させて下さいね?」
何が何だかわからず、男にロープで椅子に体を固定される。
「どう言う事だよっ!?」
騒ぐ俺に、すぐに分かりますよと言って、Jはニヤリと笑った。
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