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第17話

それからほんの数秒だった。ふわんと鼻をくすぐる甘い匂い。瞬間下半身が爆発しそうな痛みに脂汗が滴り落ちる。 「っんだ……これ……?」 苦しい、辛い、犯したい、孕ませたい……噛みたいっ!! ぐるぐると頭の中を欲望だけが渦巻いていく。 「我慢できそうにないαは手を上げて?この子の結構ヤバそうだから、ダメそうなら拘束するよ?」 Jの言葉に数人の男が手を挙げた。すぐにロープで拘束されるが、俺と同じように苦しそうなのがわかる。 匂いはどんどん強くなり、その強さに比例するように理性を保つのが難しいほどに欲望も強くなる。 初対面の、しかも男にここまでの欲を感じていることに驚愕しながらも、ともかく犯したくて噛みたくて、ギリギリと歯軋りする。 「さて、この子ね初めてΩの匂いを嗅いでるんですよ。だから、見て?もう布がはち切れそうになっちゃってる……ねぇ、陽君?このΩと何がしたい?」 言いながらJが俺の椅子をオメガに近付けて行く。 匂いの中に入り込んでいくような感覚に、理性は抗う間も無く吹き飛んで行った。 「したい……こいつを抱きたい、いや、犯したい!俺の子供を孕ませてやる!噛ませろ!!俺にそいつを噛ませろ!!!」 絶叫して椅子から立ち上がろうとするが、ロープが邪魔で動けない。 「くそっ!外せ!俺を自由にしろ!!」 Jに向かって大声を上げると、Jが呆れ顔で俺を元いた場所まで戻して言った。 「だから犯罪が起こってしまうんですよ?これがΩのヒート。抗えないでしょ?」 先程よりも薄まった匂いで少しは落ち着いたが、それでもしたいという気持ちが湧いてくる。 「運命の相手の匂いはこんなもんじゃないですよ?それを今から見せてあげましょう。」 Jが大男に向かって手を上げる。 すると大男が拘束していたαと思われる男から離れた。 それまでは鼻も摘まれていたがそれもなくなり、αの顔が一気に雄へと変貌していく。 「我慢……して……お願い……もう少し……だから……」 Ωの方も苦しそうにしながらも、こちらはまだ理性が残っているようだ。 「Ωはどんなに欲情しても、それで意識がおかしくなることはありません。自分を守るための自衛手段なのでしょう。ただ、αにはそれはない。ニュースでもいきなり大衆の面前で犯したなんてのがあったでしょう?αはΩの匂いを嗅いだ途端に、種の存続しか考えられなくなる。そしてそれは全て早い者勝ち。ですから場所も時間も何もかも吹き飛んでしまうんです。」 鼻をJが摘んでくれて、ようやく理性を取り戻した俺は、今そこで自分が感じていた初めての欲望に驚愕し、甘さを認識した。 こんなの、どうやって我慢すんだよ!? 月と兄貴の顔をまともに見ることもできず下を向こうとしたが、Jの鼻を摘んでいる手がそれをさせてくれない。 「くそっ!!無理だ……ずっと我慢したんだ……お前と約束したから……でも、もう……抱きたいっ!!俺の番になれ!!いいな!お前は俺のモノだ!!すぐにわからせてやる!」 「ヤダーーーー!!!!!」 Ωの悲鳴を消すように、塞がれた唇。くちゅくちゅと目の前で行われているただのキスに視覚と聴覚が刺激されていく。 今はテレビでもちょっとしたラブシーンすら映さないので、初めて見ると言っても過言ではないこういうモノに耐性のない俺は一気に身体中が熱くなっていく。 「ようやく始まりましたか……まったく時間ばかりかかってこまったモノです。どうせこうなるんですから、さっさとしてくれれば楽な物を……」 はぁとため息をついたJが俺達を見る。 「これがΩとαです。運命の番はどんなに我慢しても運命の強い匂いで、最終的にはαが我慢の限界を迎えます。ですから、αに辛い思いをさせたくなかったら、さっさとαが抗えないようにして番になりなさい。もし、時間切れとなれば、こういうことになってしまうんですよ?」 Jの話を聞いて、まさしく今、目の前で行われている他人のSEXを初めて見せられてごくりと喉を鳴らしていた月と兄貴の顔が青ざめた。 「皆の前で……って事か?」 兄貴がJに尋ねる。 「そうですよ?今まさに皆の前でしているでしょう?」 テーブルの上で行われている二人の交わり。Ωの方は嫌だと言って泣き叫び、αはそれを拘束してこれから性器を受け入れることになるんだろうと思われる穴に指を出し入れしている。 男でも体液が出るんだ…… ふと足をつたう液体に目がいってそんな事を思ったら、まるで俺の考えが聞こえたかのようにJが言った。 「Ωとしてヒートが来始めると、男でも相手を受け入れられるように、体液が出始めます。そしてヒート時にのみ子宮のような臓器が現れ妊娠を可能とします。ですのでヒート時にはコンドームは使用しないで下さいね?子供を沢山作って頂かないと……あ、そろそろ番になりますよ?見えますか?αに少し尖った歯があるのが……あれでΩのうなじに噛み跡をつければ番成立です。」 言われて見ると、確かに少し尖った歯が見えた。 Ωはついにαをその体の中に受け入れて、我慢できなくなった口からは甘い声が溢れ出している。αは腰を激しく動かし、皆が見ているのも気がついていないのだろう、愛してる、俺のだと繰り返してググッと腰をくっつけた。ブルっと震えたαがギラッとした歯を見せながらΩのうなじに歯を立て、ブチッという音と共にΩが「あーーーーーーっ!!!」と悲鳴を上げるとそのままガクッと体から力が抜け意識を失った。

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