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第19話

「ごめ……ん、陽。」 兄貴の声ではっと顔を上げると、赤く高揚した顔の兄貴が、起き上がろうとしていた。 「無理すんなよ!いいから、楽になるまで寝てろって!」 言いながら兄貴の肩を押さえてテーブルに寝かせる。 「ごめんな……」 熱い吐息と共に囁くような兄貴の声。ズクンと下半身位痛みが走り、腰が曲がる。 「大丈夫か?」 兄貴の熱のせいで熱い手が俺の肩に触れると、布ごしでもわかる汗ばんだ手の感触に、その手を掴んでテーブルに押し付けたくなった。 「大丈夫だから!兄貴こそ、寝てろって!!」 強い口調で言いながら肩をずらして手をどかす。 「そうか、ならいいんだけど……約束、月としたから……ここであいつらの思い通りには……くぅっ!」 いきなり苦しそうに呻き出した兄貴に俺は何もすることができず、ただ見守るだけしかできない歯痒さを感じつつも、必死に声だけをかけ続けた。 「兄貴!大丈夫か?!なぁ、兄貴!!……っ!」 呼びかけていた声が途切れる。さっき感じていたあのΩとは違う甘い匂い。あの時は微かに匂う程度だったのに、急にその匂いは強くなり、まるでむせかえるほど。 これがヒート?! 「くそっ!!こんなの我慢なんて……兄貴……俺……っ!!」 兄貴の体に覆い被りそうになっている俺を見て、兄貴の顔がみるみる青ざめ、震える体をずるずると動かして俺から離れようとする。 「ダメだ……陽、ダメだ!俺達は兄弟なんだ!!こんなコトしちゃダメだ!!」 兄貴の言葉に分かっていると頷きながらも、Jと大男の言葉が頭の中でぐるぐると回り出す。 冷静なうちに大声を上げろと言っておけ。そうすれば助けに入る。 我慢すればするほど暴力性が増すと言う結果が出ています。 二人の言葉がまるで最後の砦だった俺の心のタガを外していく。 そうだ、このまま我慢し続ければ、俺は兄貴をボロボロにしてしまう。だったら今のうちに、まだほんの少しでも理性のある内に抱いてしまった方が、兄貴の為だ! 「兄貴……我慢しよう?俺達が我慢すれば、月は助かるかもしれない……だから……」 「あぁ。そうだ。俺達が我慢すれば月は助か……え?月も、だろう?」 「違うよ、兄貴。兄貴は我慢して今から俺に抱かれるんだ。そうすれば、俺逹が番になれば、月は許されるかもしれないだろう?それに、次は皆の前で兄貴を抱けって言われた。俺はそんなの嫌だ!だからさ、兄貴?いいや、空……俺の番になってくれ!」 「ダメだ!やめろ!!陽!!しっかりしろよ!!俺だぞ!!お前の兄貴の空なんだぞ!!」 「分かってるよ!分かっていても、もう我慢の限界なんだ!空は俺のモノだ!!俺の番にするんだ!!」 「やめろ!!陽!!!やめろーーーーー!!」 「大声出しても誰も来ねぇよ。もし、俺が暴走したら、その時には大声出せってさ……でも、こんなに大声で助けを呼んでも来ないところをみると、きっとどこかで監視してやがんだろうな。……なぁ、空さ、した事ある?」 「ないよ!」 「した事もされた事も?」 「なんだよ、された事って?」 「空は男子校だからさ、そう言うのもあるのかなと思って。」 空が押し黙って顔を赤くするのを見て、頭に血が昇っていくのを感じた。 「何されたんだよ?!言えよ!!空!!」 俺の迫力に圧倒されたのか空がおずおずと口を開いた。 「別に……好きとかじゃなかったけど……先輩に無理矢理キスを……」 「はぁ?!俺の空に何してんだよ!?どんなキスだよ?舌入れたりとかか?」 さっき目の前で見たあの双子のキスが脳裏をよぎっていく。 「くそっ!空!!お前は俺のだって事、すぐにその体の全てにわからせてやるよ!」 頭ではこれは仕方ないんだと、これが月を守る為なんだと言い聞かせて、体の欲望のままに俺は兄弟である空の唇に自分の唇を重ねた。

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