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第24話
「月、開けてくれ!」
扉の前で部屋の中に向かって声をかけると、パタパタとかけてくる足音がしてバタンと扉が開いた。
「陽!兄貴に何をした……嘘だろう?なぁ、嘘だよな?」
抱えられたままの空の首筋に残る歯形と毛布から出ている素足に月の顔が青ざめる。
「うるせぇ!ともかく中に入れさせろ!話はそれからだ。」
月を突き飛ばすように体を部屋に入れるとようやくホッとした。
空を真ん中のベッドに寝かせて、月に少しの間そっちにいろと言って防音完璧という仕切りでベッドの周囲を覆っていく。
「空、起きてんだろ?」
ぎしっという音をわざと大きめに立ててベッドに上がると、空がぱちっと目を開けて俺から逃げようと体を起こそうとした。
その肩に手を置き、力を入れて再びベッドに押し倒す。
「やだ!どけよ!退いてくれ!」
「なんもしねぇから、ともかく話を聞いてくれ!」
俺の言葉に、本当に?と言って俺が頷くのを見るとようやく口を閉じた。
「あのさ、悪かったよ。俺、いきなり頭ん中を何かに乗っ取られたみたいになって、空を抱きたいってことしか思えなくなったんだ。ごめん。」
しおらしい俺の態度に空がいいよと言って子供にするように頭を撫でてくれた。
「元はと言えば、俺がヒートになっちゃったのが原因だからさ。今回は仕方ないよ……俺の方こそごめんな?」
「空……あのさ、しばらくの間はここで寝るのやめるわ。俺、空のあの匂いを嗅いだら絶対に我慢できなくなるから。一応は俺達は番になったんだからJは何もしてこないと思うし。」
「え?でも、どこで寝るんだよ?」
「ロビーっていうか、談話室みたいな所にソファがあっただろう?あそこに毛布を持って寝る。次の空のヒートまでにはなんとかああいうことをしなくて済むようにできる方法を考えるけど、今はともかく離れている方がいいと思う……実は今も空の匂いすごくてさ。話途切れさせて悪いんだけど、トイレ行かせて?」
我慢できないほどに再び強くなる空の匂い。さっきまでは仄かに香る程度だったのに、すでに理性が欲望に追い出されそうになっている。
「待って!」
立ち上がろうとする俺の腕を空の手が掴んだ。
「どうした?」
「俺も、体が熱くて……ヒートって一回しただけじゃ治らないのか?」
言われて空を見ると、顔を真っ赤にして息を荒くしている。
「どうなんだろう?スマホで調べてみようか?」
「ダメだ……熱くて……奥が、ジンジンする……腹の奥が、乾くんだ。」
潤んだ目で俺を見上げる空に我慢できなくなりそうで、気を緩めると空をまた抱いてしまいそうで、ともかくトイレに行ってくるからと言って空の手を振り解いた。
「陽っ!待ってよ!俺、俺もう……欲しい。陽のちんこで俺の中を突いて欲しい!」
空の言葉に体の疼きが強くなる。
それでも……これはヒートが空に言わせてるんだ!空の本当の言葉じゃない!空は本当は絶対に俺とはしたくないって思っているはずだ!
それでも、頭の中ではそうだと分かっていても、空の口からあふれ出る甘い言葉と吐息と共に香ってくる甘い匂い。
「αはΩのヒートの匂いには抗えないんだよ?俺の匂い、好きでしょ?」
空がベッドから降りて仕切りに手をかけた俺に向かって、まとっていた毛布を剥ぎ全裸で歩いて来る。
「なぁ、さっきのように俺を抱いてくれよ?俺の奥までそのちんこでぐちゃぐちゃにしてよ。俺達は番だろう?それにもうしちゃったんだから、今更何回したって同じだろう?なぁ、陽?俺を抱いて?」
仕切りを持っていた手をもう片方の手でぎゅっと握る。
この手を離したらダメだ!これ以上、空を悲しませたくない!だから、ここを開けて俺は出て行くんだ!ここを開けて……
背中から甘い匂いが俺を覆って来る。ドキッと心臓が大きく鳴り、体中が熱くておかしくなりそうになる。
「空!だめだってば!」
俺の言葉を無視して空が俺の仕切りを握る手に自分の手を重ねる。
「これじゃなくて、俺を掴んでよ。俺の事、離さないでよ……陽、抱いて?」
ボン!っと頭の中で何かが破裂した。
瞬間、掴まれていた手は仕切りを離して空の手を掴み、そのままベッドに向かって腕をブンと振って空を放り投げた。とすっとベッドに転がった空が、早くと俺を誘うように腕を広げる。
「煽ったのは、空だからな!でも、これが最後だ!いいな?」
ふふっと笑って空がバイバイと手を振る。
「何やってんだ?」
「月が見てたから手を振ったんだ!」
月が見てた?
ばっと後ろを振り返ると仕切りが少し開いていて、そこから月の青ざめた顔が覗いていた。
「月!違うんだ!これは、空がヒートで!」
「何で……何で……?約束したよね?番にならなければ帰れるから、そしたら先輩の元に行けるから、我慢しようって。それなのに、何で?」
月が仕切りを開けて中に入って来る。
「ダメだ!入って来るな!月は、大丈夫だから!俺と空が守るから!」
「どういう事?」
涙声だった月の声が少し落ち着く。
「俺と空だけが番になる。それで俺は月とは何もしない。何もしない月はここでは用はないだろう?だから月だけは家に帰して欲しいって言ったんだ。」
「そんな……俺、皆で帰りたいんだ!俺だけ帰れても嬉しくない!」
喜んでくれると思っていた月の思いもかけない言葉に、俺は口をつぐんだ。
「ダメだよ!月は帰るんだよ!俺だけがここで陽に愛されて過ごすんだ!なぁ、陽?」
さっきまではあんなに俺のことを警戒し、嫌がっていたのに、ヒートというのは人格すらも変えるのかとこちらもこちらで言葉が出ない。
「兄貴、どうしちゃったの?なぁ、陽!兄貴が変だよ!」
「あぁ、これがヒートってやつなんだよ。俺も結局は抗えなかった。それどころか今も我慢の限界なんだ……月、悪いんだけど出て行ってくれないか?この仕切りをすれば声は漏れないらしいけど、嫌だったらヘッドホンとか、あとは部屋から出ていてくれ。悪いな。」
ふらふらと空の元に向かう俺に月が一瞬ためらった後で仕切りを閉めた。
「空、待たせたな……」
そう言ってベッドに登ろうとした俺の背後からぎゅっと腕が伸びて俺を抱きしめた。
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