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第33話
「はぁ?!」
起き上がって、目の前の光景に大声が出る。
思い起こされる諸々に頭が追いつかない。
「どうしたんだ?陽、大丈夫?」
起き上がって俺の方に伸びてきた兄貴の腕を避ける。
「陽?」
「悪い……俺、ごめん!」
それだけ言うのが精一杯で、俺はパンツ一枚で仕切りから飛び出した。
「あ、陽、おはよう。今日から学校行けそう?」
「え?月、おはよう。悪い、ちょっとシャワー浴びてくる。」
答えになってないと分かっていながらも、頭を冷やしたくてシャワーに駆け込む。
「なんで……こんな事……」
思い出すだけで体が熱くなる。頭は理性的に動いても体はそうはいかない。
「いってー!」
反応して熱く鼓動する下半身に手を添える。
「あぁっ!くそっ!!」
冷静にする自慰ほど間抜けなものはない。
「それでも出るものは出るんだよな……」
ため息混じりに手を動かすと、頭に昨夜までの兄貴とのあれこれが思い浮かび、消しても消しても湧いてくる。
「兄貴と……俺、兄貴と……っ!!」
ドロッとした手についた体液を体に擦り付け、シャワーのお湯がそれを洗い流していくのを見ながら、一気に罪悪感と後悔に苛まれる。
「結局、兄貴で……はぁ。これからどんな顔して会えばいいんだよ……」
大きなため息をついてシャワーに打たれていると、ドンドンと扉が揺れた。
「陽っ!兄貴が連れていかれちゃう!」
いきなりの月の大声に考える間も無くシャワーを止めてバスタオルを腰に巻くと、濡れたままで扉を開ける。
「兄貴がどうした?!」
「あに……あ、兄貴があの大男に連れていかれちゃう!!」
「何で?!」
扉を開けると、今まさに大男の肩に担がれたシーツに包まった兄貴と目が合った。
「兄貴っ!!」
「陽!助け……え?!」
「おい!兄貴を離せよ!!J、見てんだろう?説明しろ!!」
俺の迫力に大男の足が止まった。
「先生、どうするんだ?覚醒したαは俺の手には……」
大男がチラと俺を見る。
「まったく仕方がありませんね。」
スピーカーから呆れたJの声。
「どうして兄貴を連れて行く?!」
「兄貴……ねぇ。陽君、名前呼びしないんですか?」
「それは……そんなのは俺の勝手だ!俺の質問に答えろよ!」
「あぁ、空君を連れて来て。陽君の方は大丈夫だから。」
ブツっと電源が切れた音。
「はぁ?!何なんだよ、あれ?おい、離せよ!兄貴を離せ!!」
「大丈夫……って、言われてもなぁ……あぁ!行くぞ。」
大男がポカンとした顔でスピーカーを見ていたが、一人で納得すると、空を担いだままで扉に向かって行く。
「おい!離せよ!!」
大男にかけた腕。瞬間、部屋がぐるっと回転して背中に衝撃が来た。
「ってーーーーー!!」
「陽っ!!下ろせ!!陽ーーーっ!!」
肩の上で騒ぐ兄貴を黙れと言わんばかりに力を入れて動きを止める。
「陽、大丈夫?!」
月が慌てて俺に駆け寄り体を起こしてくれた。
大男はちらっとスピーカーを見てから俺を見ると口を開いた。
「やはりな……おい、ガタガタ言うな!ただの身体検査と治療だ。お前にも後で迎えが来る。今日はここで待機してろ。」
それだけ言うと、大男はバタついている空と一緒に扉から消えた。
「兄貴っ!!」
俺の声が扉に阻まれ、部屋の中に木霊した。
「……あのさ、何で兄貴……なの?」
しばらくして月が口を開いた。
「え?!だって兄貴は兄貴だろう?」
「昨夜は兄貴って呼ばないって、空って呼ぶって言ってた……から……それと、タオル捲れてる。」
「え?!」
下を見ると下半身が完全にタオルから顔を出していて、慌ててタオルをかぶせると月にもたれかかっていた体を離す。
が、すぐに月の手が俺の体を引き戻した。
「月?」
「ねぇ、俺さ……先輩のこと、本当に好きだったのかな?」
今、その話するのか?
気持ちは早く兄貴を助けに行きたいと思っているが、月の手が俺を離してくれない。
「陽と兄貴のを見ていて、俺、すごい嫌な感情が湧き上がって来てさ。陽は俺のだ!って……それに先輩とああ言うことをするって思っても、全然実感が湧かないんだ……反応もしない。」
月が何を言いたいのかわからず、意識をそちらに向けた瞬間、腰に硬いものが当たった。
「月?」
「俺が今何を考えているか分かる?」
「月?」
月の目が潤み、体も少し熱い。
「月、どうしたんだ?!」
「今ね、俺が陽に抱かれてるって想像してるの……それだけでね、すごい……」
ぞっと背筋が冷え、月の腕を渾身の力で振り払い、立ち上がる。
「俺たち、兄弟だぞ!?こんな事……やめろ!!」
「陽……何で?!何でそんなこと言うの?兄貴とはシたのに、何で俺はダメなの?!」
「違う!!あれは違うんだ!!」
「違うってどういう事?だって二人は番になったんでしょ?俺の目の前で噛んだよね?どうしちゃったの?陽?」
月の俺を心配して伸ばした手をはたき落とす。
パチンと部屋に響いた音に、ハッと理性が戻った。
「ごめん!月、ごめん!!」
赤くなった甲をじっと見つめる月の目が潤むが、すぐに笑顔になると言った。
「ごめんね。俺、学校に行くわ!」
バッと机の上の鞄を取ると、何を言って良いかわからずに呆然としている俺を部屋に残し、月も外へ出て行った。
「月っ!!」
またも扉に阻まれた声。
「はあああああ!」
特大のため息をついて、俺はその場に頭を抱えてしゃがみ込んだ。
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