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第34話
しばらくして扉が開き、男数人を従えたJが入って来た。
「プライバシーもないのか、ここは。」
視線も上げずに言った俺に、そうですねとJが答えた。
「ここはあなた方のような兄弟のΩαを保護する施設であると同時に、Ωαを研究する為の施設でもありますからね。」
「そう……だったな。」
言いながら体を立ち上がらせると、それで?とJを見た。
「さっき言ってた身体検査か?」
「ええ、そうなんですが……その前に少しいいですか?」
パチンと指を鳴らすと男の一人が俺に敵意剥き出しで殴りかかって来た。
「何……っ!!」
避ける間も無くゴンという衝撃が腹に入り、息が詰まる。折れた体のまま前のめりに崩れ落ち、咳き込んだ。
「ゲホゲホ!な……にを……」
言いたい言葉が咳と息苦しさで続かない。
「やはり……陽君、何で空君を兄貴って呼んでるの?」
「っなもん、あんたに言わなくたっていいだろう?!」
ようやく落ち着いて言葉が続く。
「兄弟なんだから兄貴って呼ぶに決まってる……なんだよ?!」
Jの顔が俺を覗き込む。
「やっぱり、覚醒してないようですね。」
「え?!」
「陽君、あなたにはまだ少し覚醒が早かったようです。時々あるんですよ。Ωの匂いに覚醒が早まる事例が……でも、一度覚醒したαはすぐに覚醒しますので大丈夫……そうだ、月君にヒートになってもらいましょうか?」
「っざけるな!」
「何でですか?月君もそれを望んでいるようでしたけど?」
先程の事が頭をよぎるが、すぐにそれを追い出すように頭を振った。
「あれは、俺たちのを見てちょっとおかしい気持ちになっただけだ!大体、兄弟でなんておかしいだろう!?」
「でももうその兄弟である空君とは番になったんです。いいですか?番となったΩはたった一つのことにおいて大変に神経質になります。何だかわかりますか?」
無言で首を振る。
「αに番解消を宣告される事です。それはΩにとって死と同意語です。歯形を消し、新たなαを求めるΩも稀にいますが、大抵のΩは普通でなくなるか自死を選びます。いいですか?Ωにとってαはいなくては生きていけない存在なんです。」
話の重さにごくりと喉がなったが、カラカラの喉はひっつくだけ。
「あなたはその腕にこれから二人のΩの命を抱えるんです。分かりましたか?」
「っなの、わからねぇよ!!いきなり連れてこられて、番になれって言われて……あんなわけがわからなくなる匂い嗅がされて、今更そんなこと言われたって……分かるわけないだろう!?」
その勢いのままJに向かって行く俺の前に先程の男が立ち塞がると視界から消えた。瞬間、再びの腹への衝撃。
「ぐはっ!」
そのまま崩れ落ちて行く俺の腕を掴んだJの手にきらりと光る針。
「な……っ!!」
プツッと皮膚に突き刺さった針から入ってくる液体の冷たさ。
「少し落ち着いてください。寝ている間に検査も終わっていますよ。ただくれぐれもΩに否定的な言葉は言わないように。あなたの大事な兄弟の命を守りたいのなら……いいですね?」
抜かれた針と同時に重くなる体。自分の意思では保っていられない意識を手放す瞬間、分かったと呟いた。
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