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第35話
「ん……」
「大丈夫か?!」
兄貴の心配する声。そっと瞼を開けると、目の前に声と同じく心配そうに見つめる兄貴の顔があった。
「多分……大丈夫。兄貴は?」
「俺は平気……兄貴……?」
「良かった。でも眠っている間に何を調べられたんだろう?」
俺の問いに兄貴は黙ったままで下を向いている。
「兄貴?なぁ、どこか変なのか?」
「何で、何で兄貴って呼ぶんだよ?何で、空って呼んでくれないんだよ?」
起き上がりながら兄貴の肩にかけた俺の手を掴んでぐいっと引っ張り、俺の胸に顔を埋めた。
「兄貴?!こういうのダメだって!なぁ、兄貴!」
「番も、ダメなのか……」
兄貴の問いにJの言葉を思い出す。
自死……
「そうじゃない!でも、今は……」
「今はって何だよ?俺はもうお前と番になってるんだぞ!俺はもう……お前の番なんだ……」
胸がじわーっと濡れて温かさが広がっていく。
「兄貴……ごめん。」
「謝るな!謝るなよ!」
そう言って兄貴が俺から体を離す。
「じゃあ、番のことも無かったことに……するのか?」
ズキンと胸が痛む。
「違う!でも、今はまだ待っていて欲しい。だから……」
「分かったよ。悪かったな、こんな状態のお前にこんなこと言って……兄貴なのに、ごめんな。」
寂しそうに微笑んでベッドを降りると、仕切りの外へ出て行ったと同時に、後ろを振り返りながら月が入ってきた。
「大丈夫?なんか、兄貴泣いてたみたいだけど……」
「だよな……はぁ、どうしよう。」
言いながら、ベッドに横になる。
月がぎしっという音と一緒にベッドに上がって俺の横に寝転がった。
「このベッドいいね。昔みたいに一緒に寝られる。」
無邪気に笑う月に癒され、自然に月の髪を撫でていた。
「ん、気持ちいい。陽の手、気持ちいい。」
月の腰が俺の腰に押し付けられ、それが反応しているのが分かった途端に、背中を這い上がる寒気。
「やめろっ!」
月から離れるように起き上がるとポカンとした顔で俺を見上げた。
「どうしたの?」
「俺達は兄弟なんだぞ?!こんなことおかしいだろう?」
俺の言葉にキョトンとした顔をしたが、すぐに吹き出して大笑いし出した。
「今更、何を言っているのかわかってる?あれだけ兄貴とヤって、番になるところを俺にも見せて、それで今更兄弟?本気で言っているの、それ?何、いきなり理性と倫理観に支配されちゃったとかいうやつ?」
「違う……覚醒が早過ぎたって、Jが言っていた。俺のα性の覚醒が戻ったって。」
「なるほどねぇ。」
月が頷いて起き上がりながら俺に近づく。
「なんだよ?」
「だったら、俺が陽をα性に覚醒してあげようか?ヒートになってさ。」
耳元で囁くいつもの月とは違う甘い声。
ばっと手で耳を塞いで、月の体を突き飛ばした。
「やめろ!俺は、あんな事するつもりは、もうないんだ!」
「それって、ヒートになった兄貴を放っておくっていう事?酷いなぁ、番にしておいてそれはないんじゃないの?それに忘れているようだけど、俺が二人の番の証人って事、覚えてる?まぁ、陽をαに覚醒させちゃえばいいって事だよね?J、そういう事でしょう?」
「まぁ、そうですね。月君にその気があるならば、いつでもヒートにしてあげられますよ?」
「人の会話に入ってくんじゃねぇよ!」
「月君に尋ねられたから答えたまでですよ。それと、空君のことですが、あなたは兄弟だからというだけで突っぱねられますが、月君の言う通り、空君がヒートになっても何もしない気ですか?それがどれほどΩにとって大変なことか分かって言ってますか?私の話を聞いていましたか?」
「うるせえ!分かってるし聞いてたよ!それでも……どうにもならねぇんだよ!いい加減、黙れ!」
バスっとスピーカーに向かって枕を投げると、そのまま毛布を持ってベッドを降りた。
「どこに行くの?」
「外にあるソファで寝る。悪いけど兄貴の事、みてやってくれ。」
「陽っ!」
背中に縋りかける手を避けて仕切りを出ると、立ち尽くしている兄貴がいた。
「陽……」
「悪い、本当にごめん。」
そう言って横を通り過ぎた俺に兄貴の泣き声と月の俺を呼ぶ声が追いかけてくるが、俺は振り向きもせずに扉を出た。
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