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第37話

廊下を走った勢いのままに扉を開けようとした俺の手を、理性が止めた。 まだ、帰れるって決まったわけじゃない。嬉しがらせた分、ダメだった時の月の辛さを考えるとこれはきちんと決まるまで黙っていた方がいいんじゃないか? そう考えて、何もなかったかのように扉を開ける。 「ただいま……」 月の顔を見るとニヤニヤしてしまいそうなので、ソファに座っている二人から顔を背けるようにして、ベッドにゴロンと横になった。 「おかえり、陽。どうしたの?なんかあった?」 月が双子の勘が働いたのか聞いてくるのを別にと言って、背中を向けるように寝返りを打つとスマホのゲームをやり出した。 「ふぅん。ねぇ、陽さ……そろそろ観念しない?俺さ、Jに言われたんだ。そろそろ時間切れですよって。兄貴は番になったからいいけれど、俺はまだだからさ……ここに番にもならないのにいるって言うのはちょっとなんて言うか、皆とも話が合わないし、そろそろさ……」 Jの奴、俺にだけじゃなくて月にも話してたのか。じゃあ、もしかしたらヒート誘発の話もJに脅されて月が言ってしまったって言うだけじゃ…… 「なぁ、月はJに何か言ったのか?例えばヒートのこと、とか……」 俺の疑問に月の顔が赤くなる。 「え?何?何の事?」 兄貴がわからないと言う顔で月の顔を覗き込む。それを無視して、ボソッと月が小さい声で尋ねた。 「Jに……会ったの?」 「あぁ、今さっき食堂で。それで、時間切れだとか、ヒートのこととか言われた。でも、それってお前の本心じゃないんだろう?お前はずっと先輩が好きなんだもんな?今はちょっと俺たちにあてられて、こんな普通じゃない空間に閉じ込められて、それで少し気持ちがおかしくなってるだけだよ。な?そうだろう?」 「月は今でもその先輩のことが好きなの?」 何も言わない月から俺に兄貴の顔が向く。 「そうだよ!だって、月はずっと先輩が好きだったんだからさ。俺なんかよりも優しくてかっこよくて背も高くて頼もしくて……だから、月が帰れれば俺とのことなんてすぐに忘れちまうって!」 「何て……?」 俯いていた月がガバッと顔を上げて俺のベッドに向かってくる。 「だから、忘れるって。」 「違うよ!その前!帰れればってどういう事?」 言われてばっと両手で口を塞いだが、今更もう月の耳に届いてしまった言葉を取り戻すことはできない。 「帰れるって何?何なんだよ?」 大声で俺に掴みかかってくる月に兄貴も驚いてベッドに来ると月を俺から離そうとするが、月はすごい力で俺の腕を掴んで体を揺さぶる。 「誰が!いつ!頼んだんだよ?俺はここにいる!ここに、陽の番になって兄貴と3人でここにいる!今更帰る気もないし、先輩の事ももう忘れた!今は陽が好きなんだ!だから、俺……Jに頼んだ。早くヒートになりたいって。」 「おまっ!本当にお前が頼んだのか?Jにヒート誘発剤をくれって?嘘だろう……」 「嘘じゃない!俺だってずっと悩んだ。でももう先輩の顔もあまり覚えていない。ここの空間のせいだとしてもなんでも、今俺が好きなのは陽なんだ!だから……あの時の双子みたいに皆の前でなんてことになる前に、俺を番にしてよ!」 俺を掴む手に力が入り、馬乗りになって俺に顔を近付けてくる月の腹を膝で蹴飛ばし、痛みで手を離した隙にベッドから飛び降りると、追いかけてくる兄貴の手を払い落として扉を開けて外に飛び出した。 「おや?」 ボスっと何かにぶつかり顔を上げるとあの大男。その横から微笑んだJが顔を出した。

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