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第41話

「陽……大丈夫?」 空が仕切りを開けて入って来た。 「先輩……は?」 まだ涙の止まらぬ声で空に尋ねる。 「今、月やJと話してる。すごいよ、あの人。陽が好きだの一点張りで、二人とも困り果ててる。」 「もう……いいって言ってるのに。俺のことで先輩の人生を無駄にしたくないんだ。さっさと他に好きな人作って、幸せになって欲しい。」 ぎしっと空が俺のベッドに腰掛けて、枕に埋めたままの俺の後頭部を撫でる。 「陽は本当にそれでいいの?ずっと好きだったんだろ?幸せになって欲しいなんて言うけど、本当は他の誰にも取られたくないのが本音なんじゃないの?」 空の言いたいことは分かる。俺だってできることなら先輩と恋人になりたい。だけど、今の状況、J達の話を聞けば聞くほどにそれは無理だって言う事も理解してしまう。 それに…… 「αなんだもん、俺。無理だろう……」 俺の言葉に空の撫でていた手が止まる。 「陽……もしかして、だけどさ……間違ってたらごめん。先輩に……抱かれたい……の?」 空の言葉に体が硬くなる。 「嘘……だろう?」 空が驚きのあまりベッドから降りた。それを追いかけるように体を起こして空の手を握る。 「他の奴らには言わないでくれ!ずっと、先輩に愛されたいって思ってたんだ。でも、αとして覚醒したら征服欲に駆られてしまう自分を抑えられなくて。それに、プライド……先輩の顔を見て先輩に好きだって言われて、嬉しかった…それでも今までみたいに手放しでは喜べなかった。今すぐにでも飛んでいって先輩に愛されたいって思うことができなくなってた。」 ぎゅっと握っていた手が暖かい空の手に包まれる。それまで我慢していた事を吐き出せた安心感からか、堰を切ったように空に自分の気持ちを訴えた。 「αとして皆の上に立ってこの世界を導いていく者が、好きな相手とは言えβに組み敷かれ、与えられる快楽で喘いでるなんて、そんなの俺自信が許せない。それでもそんな事は全部無視して愛されたいとも思う。もう気持ちがぐちゃぐちゃで訳が分からないんだ。」 「陽……」 「分かってる!分かってても、体は先輩を欲しがってる……だけど俺のαとしてのプライドはそれを絶対に許さない。だったら俺のことなんか諦めてもらって他の人と幸せになって欲しい。誰かのモノになってくれれば俺は諦められるから……きっと。」 「でも、先輩に愛されたいんだろう?だったらJに相談してみろよ?俺達はお前に幸せでいてほしいし、2人のΩを抱えるお前が少しでもそのストレスやプレッシャーから解き放たれる居場所があればいいなと思ってる。」 「俺は少し嫌だけどな。」 ガラッと仕切りが開いて月が入ってきた。 「もうお手上げだよ。先輩があんなに頑固だとは思わなかった。」 「嫌……だよな、やっぱり。αが抱かれるなんて……」 俺の呟きに焦ったように月がベッドに上がってくる。 「違うよ!俺も兄貴と一緒の気持ち。だけど、先輩が陽と一緒にいる時間が増えればそれだけ俺達との時間が減るわけだろう?それでなくとも、兄貴と半分こなわけだし……」 口を尖らせる月の頭を空が優しく叩く。 「まったくお前は……本当に陽が大好きなんだな?でもさ、あの人が陽を愛してる間だって、別に陽が俺達を愛せないわけじゃないだろう?」 「え?!兄貴……それってちょっとすごいこと言ってない?」 「俺は全く構わない。陽さえ俺たちを愛してくれるなら。それに、前後からの快楽に悶える陽も見たいし……考えるだけで体が熱くなってきちゃうよ。」 そっと空の手が俺の股間に触れる。 「待てって!今はまだ……それにそんな事、Jが許してくれるわけない。」 「それは言ってみなきゃ分からないじゃないか?」 月の声に答えるようにJが仕切りの中に入ってきた。 「全く、仕切りは閉めなければ防音にはならないんですよ?まぁ、分かっててわざと開けておいたんでしょうけれど。」 はぁとため息をつくJの顔を6個の瞳が凝視する。 「やめて下さい。こんな話、前代未聞なんですよ?私の一存で決められるわけがない……」 「スタッフとしてならどうだ?」 ぬっと大男が頭だけ仕切りの中に入れてきた。 「はぁ?!」 素っ頓狂なJの声にも大男は気にせず話を続ける。 「先生はここの管理も任されてるんだろう?だったらスタッフとして雇ってやればいいじゃないか?こいつのストレス緩和係とかでさ?」 「何ですか、それ?まったく、勝手なことばかりペラペラと。それだってうまくいく保証はないんですよ?」 「やってみるだけやってみろよ?政府の傀儡に終わりたくないって言うなら、まずはその一歩って事でさ。こんな事もできないようじゃ、国に一泡なんて夢のまた夢……だろ?」 大男のニヤニヤ笑いにJが怒り出すのでは?とハラハラして見守っていた俺たちを唖然とさせようなJの笑い声が部屋に響き渡った。 「全くあなたは私を煽るのが上手ですよね?いいでしょう。その煽りに乗って差し上げます。その代わり……次のヒートでは子を、いいですね?」 「代償にしてはデカくないか?」 「何を仰っているんですか?ここまで我慢してきたんですよ?流石にあなたの年齢も考えればここら辺で頷いて頂かないと……それこそ無理矢理にと言う形にせざるを得なくなりますよ?」 「まったくとんだ藪蛇だ!だが、分かったよ。俺も考えていないわけじゃなかったし。」 「ふふ。これでようやく私のやる気も上がりました。陽君、先輩の気持ちをご自分で尋ねて下さい。あなたを好きと言う気持ちだけでこの拘束された場所に彼は一生閉じ込められる覚悟はあるのかと。家族にも会えない、将来の夢も何もかも捨て去るだけの覚悟です。」 言われて俺は自分がこれからしようとしている事がどれだけ辛い事かを改めて認識した。 先輩の一生を俺なんかの為に…… 考えれば考えるほど、体が震えて足が動かせない。 最初の内はそれでもうまくいくだろう。だけど愛が冷めていった時、先輩がどんなに元の世界に戻りたくても戻らせてはもらえない。その時、先輩はきっと俺を恨むだろう。そんなふうに先輩の人生を俺のエゴでダメにしていいのか? 俺がじっと動かないのを見て、月が口を開いた。 「いい加減にしなよ!わからない事を悶々と考えていたって仕方ないでしょ?何か起きた時?その時はその時!今はともかくあの頑固者を喜ばせてあげなよ!」 ほら!と月が俺の腕を引っ張ってベッドから降りると、画面の向こうで懸命にこちらの様子を見ようと、顔をくっつけんばかりにしている先輩の顔が見えた。 「陽!!」 スピーカーが音割れしそうなほどの大声に苦笑しながら、ソファに座った。 「俺たちは外に出てるから。」 月がそう言うと、仕切りから皆がぞろぞろと扉に向かって行く。 「先輩?って言っても俺より年下だから、秀君でいいかな?陽の兄で番の空です。どうか陽の話を真剣に聞いて下さい。俺も月も陽が幸せである事を望んでいる。だけど君がいなくても俺と月で陽を幸せにするから、君はきちんと自分のことも考えてから答えを出して下さい。それじゃ。」 空がPCの前で一瞬止まり、画面の向こうの先輩にそれだけ言うと、ペコリと頭を下げて扉から出て行き、最後に大男とJが扉を閉めつつ出て行った。 「何のことだかわからないんだけど……」 先輩が空の出て行った方に目を向けたままで口を開いた。 「俺も出来るなら陽を幸せにしたい。陽は俺の事をどう思っているんだ?」 「それは……さっき月が……」 言葉を濁す俺に先輩がそうじゃないと言って身を乗り出した。 「俺は陽の口から聞きたい!俺は陽が好きだ!愛してる!」 「俺も……先輩の事……好き……」 言うだけで顔が真っ赤になり体が熱くなる。 αとして月や空にはいくらでも言える事が、先輩の前では恥ずかしくて、それだけ言うのがやっとだった。 「本当か?!本当に陽が俺を好きなんだな?」 こくんと頷く俺に、今にも画面から出てきそうな勢いで顔を近付けてくる。 「あぁ、くそっ!今すぐ抱きしめてキスしたい!!」 「俺も……」 「なぁ、会えないのか?俺たち両思いって分かったのに、これじゃあ体が爆発しそうだ!」 「それがね!」 俺の言葉に画面の向こうで身を捩っていた先輩がこちらを見た。 「J、ってさっきの白衣の人なんだけど……ここで俺専属のスタッフとして働かないかって……あ、でも、ここに来たらもう一生ここで過ごさなきゃいけないし、家族とも会えないし、将来の夢とか全て捨て去らないとダメなんだ。今はいいけれど、もしも先輩の気持ちが冷めたとしても先輩はこの場所に拘束されたままでいなきゃいけない。だから、その……」 「さっきのお兄さんの話ってこれの事?」 頷く俺にそっかと呟いて天井を見上げた。 「家族仲は悪くはないからさ、会えなくなるのは辛いな……」 先輩の言葉に両親の顔が浮かぶ。 「そう、だよね。俺も今でも両親に会いたいって思う。」 俺の言葉にそうだよなと頷いた。 「たださ、衣食住完備で陽専属スタッフか……何をするんだ?」 「あの……俺には月と空の2人の番がいて、Ωを守るって言うαの役割を他の人よりも2倍行わなければいけない。それで、そのストレスやプレッシャーを緩和してくれたら……」 俺の話にふーんと考えると尋ねてきた。 「具体的には何をしたらいいんだ?」 「その……話を聞いてもらったり……あとは……愛して……欲しい。」 消え入りそうな俺の声に先輩までもが真っ赤になって、2人して落ち着かなく体を動かす。 「愛してって事はさ……俺が抱いていいの?」 「あの……はい……」 「でも、αって確か征服欲が強いって何かで読んだけど?」 「それは、αとして覚醒してそう言う気持ちはあるけれど、先輩の事は覚醒する前に好きになって、ずっと抱いて欲しいって……思ってたから……」 「マジで?!俺も陽のことをずっと抱きたかった。だけど陽がαだって分かって、翌日からは月と2人で学校にも来なくなって。先生は転校したって言うだけでどこに行ったかも分からなくて。諦めようって思った。それでも俺はやっぱり陽が好きで、気がついたらあちこちに連絡してた。何回も何回も陽の家に行って話をして、偶然封筒を見かけて、それで手がかりを見つけた。それからは毎日のように出先機関とかいう場所に行って、何とか手がかりを掴もうとした。」 「先輩……ごめんなさい。何も言わずにいなくなって、本当にごめんなさい。」 俺の言葉に先輩が静かに微笑んだ。 「いいよ。陽のせいじゃないしさ。今した話も別に陽を責めてるわけじゃないんだ。陽の話をもし俺が蹴ったとしたら、それでもやっぱり俺は陽を諦められずに後悔して一生を過ごすんだろうなってこと。だったら俺はこの先の人生で悔んだとしても、この話を拒否した場合よりはいい人生を送れるってこと。」 「え?どういう……」 「俺、その話を受けるよ。一生、陽の隣にいる。陽が少しでも辛くないように、その心も体も俺で解してやる。」 「先輩……なんかエロい……」 俺の言葉に、やっぱりと言って先輩も照れ笑いを浮かべた。 「お兄さんや月に負けないくらい陽を幸せにするからさ!」 「うん!」 先輩に微笑みかけられ、自然に2人の顔が画面に近づいていく。画面にその唇が触れる瞬間、PCが浮かび上がった。 「まったく、これは私の物ですよ!?したければ直接しなさい!」 Jはそう言ってPCをパタンと閉じると部屋から出て行った。 「どう言う……?」 訳も分からずにいる俺に月と空が部屋に入りおめでとうと飛びついてきた。 「数日で先輩が来るってさ!なんかさ、兄貴の話を聞いていたら俺も楽しみになってきちゃった!ヤバい!なぁ、シよ?」 月が俺の腕を引っ張ってベッドに向かっていく。その後ろを空もニコニコと微笑みながら付いてくると、仕切りを締めようとしてその手を止めた。 「別に聞かれても問題ないしな?」 俺を挟んで2人が抱きついてくる。αとしての征服欲が沸々と湧き上がり、俺達は3人でお互いの体を貪り合った。

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