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第50話
俺達を探しに来た施設の職員に保護され戻ると、入り口でソワソワとしながら待っていた空が俺たちの姿が見えた瞬間、先輩が握っていた手を振り切って俺達の、いや、俺の元に一目散に駆け寄り胸に飛び込んできた。
「陽っ!!心配したんだよ!どうしたの?ねぇ、何があったの?もう……本当に……バカ……」
嗚咽とそれと分かる温もりが胸に広がっていく。
「泣いてる……のか?」
「泣いてないっ!!ただ……顔見たらホッとして……勝手に……」
そう言って耳が真っ赤になっていく。
チラッと先輩を見ると悔しそうに歯軋りして俺を睨みつけている。
「そ……っか。ごめんな、空。心配かけて。ほら、俺に顔見せて?」
「やだ……ぐちゃぐちゃな顔、見せたくない。」
俺のシャツをぎゅっと掴んで子供のようにイヤイヤと顔を胸に埋める。
「見せてよ?空が俺のために泣いてる顔が可愛くないわけないじゃん。なぁ、俺に見せて?」
「そういうの……ズルい……うぅ、陽、笑わないでよ?」
シャツを握っていた手が少し緩んで、頭が胸から少し離れる。
「笑わねぇって!ほら、顔上げてよ?」
空の両頬に手を当てて空の顔を上げさせると、唇を合わせる。
「んっ!よ……う、ダメ……み……んなが見て……っ!」
「俺達の抱き合ってるのも聞いてるような連中だ。こんなの、どうって事ねぇよ。」
「陽……あっ!そんなキス……我慢でき……ない……早……くぅ……」
「何だよ?もう膝がガクガクじゃん……いいぜ、俺も空が欲しい。おい!月も来いよ!」
それまで黙って見ていた月が俺の差し出した手をまるで犬のように駆け寄って握ってくる。
じっとこちらを見て、こそっと呟いた。
「意地悪い……かぁわいそ……」
誰がと言わなくても月の目が扉の側で立ち尽くしている先輩を、憐れむように見つめていた。
「……るせっ!嫌なら月は来なくてもいいんだけど?」
俺の言葉に焦った月が俺が離そうとする手を握って自分の胸に近付けた。
「やだ!俺だって、陽の欲しい!!昨日は兄貴が先だったんだから今日は俺が先!」
「えーーーっ!?もう、我慢できないよ!月、お願い!!僕を先にしてよ!!」
ギャイギャイと俺を挟んで言い合う2人を連れて、扉の側で立ち尽くしている先輩の前を通り過ぎながら、先輩にも聞こえるように空の肩を掴んで耳に囁いた。
「空……今日は、お前からだ。欲しいんだろう?ここにぶち込んでやるよ……」
空の尻の間に指を入れてキュッと力を入れる。それだけで空は可愛い声を出して俺に必死にしがみつき甘く名を呼んだ。
「陽……嬉しい……」
反対側から聞こえる盛大なため息は完全に無視して、くくっと堪えきれない笑いを漏らしながら先輩の前を歩き去った。
が、通り過ぎた瞬間、まるで今まで忘れ去っていたかのように、たった今、先輩の存在に気が付いたようなふりをして足を止めると、顔だけ振り返り先輩と声をかけた。
「先輩も行きましょう?俺達の部屋。」
「あ……あぁ。」
躊躇いがちに出した足を見ながらとどめを刺す。
「俺のこと、満足させてくださいね?」
「……っ!……あぁ。」
一瞬、空にいきかけた視線が宙を泳いで自分の足元に行き着く。
「行きますよ?先輩!」
俺はこの人を絶対に許しはしない。俺の心を裏切り、俺の番を奪おうとしているこの男を。
口元に薄ら笑いを浮かべた俺に促されて先輩が重い足を動かして施設へと入っていく。
絶対に、逃がさない。
αの血が
αのプライドが
ズタズタにされた俺の心の復讐を誓うようにドクンと大きく鼓動を打った。
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