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第52話

次の日の朝、空と月はいつも通りに学校へ行った。先輩は来てすぐなので暫くはこの施設に慣れる為自由行動。 俺は、施設外に出たことへのペナルティで自室待機。 そういう事で、ベッドから二人を見送った俺は静かというより、先輩と二人きりの重い空気の部屋に身を置くこととなった。 既に着替えて、やる事なくソファに座り俯いたままでいる先輩の口から出るため息が聞こえてくる。 これがずっと俺を見つけたくて探しまくって、あのJすらも動かした二人の成れの果てかと思うと、寧ろ可笑しさが込み上げてくる。 「ふはっ!はははっ!!」 突如笑い出した俺に先輩が驚いて振り向いた。 「ど……どうした?」 「別に?はは……あーあ。」 「陽?」 不審そうな顔で俺を見つめる目。そこに俺への愛しさはない。 「先輩さ、もうちょっと俺のこと愛する振りくらいして見せたら?」 「な……?!何を……言ってるんだ?」 今更隠すつもりなのか?あんなにバレバレの態度をしておいて? 「あんたさぁ、空のどこに惹かれたわけ?俺と空は確かに兄弟だから感じは似てるだろうし、俺よりも空の顔の方が好みだった?」 すると先輩が焦ったようにソファからベッドに駆け寄って来た。 そのまま俺の手を掴んで上半身を起こす。 「聞いてくれ。ちゃんと話すから。」 真剣な眼差しに俺の鼓動は高鳴り、自分がまだこの人を好きなんだと嫌でも自覚する。 「俺にもこの気持ちが分からないんだ。この前、画面越しで空さんを見た時には、確かに陽に似てるなって思いはしたけど、そういう感情は一切なかった。ただ実際に会った瞬間、身体中がこの人に会うために俺はここにいるんだ!ようやく会えた!!俺のモノだ!!っていう感情で打ち震えたんだ。それはお前の時とは明らかに違う、まるで感情が一気に爆発したような……俺にも訳がわからなくて……すまない。」 項垂れた先輩を見ながら、ため息をつく。 「すまないって言われてもさぁ……だってさ!どうせ聞いてるんだろう?」 いきなりの大声に先輩が誰かいるのかと部屋をキョロキョロと見回した。 「この部屋、ずっと監視されてんの!だから今の会話も筒抜けってこと!」 「え?!」 驚く先輩の耳にJの声が届き、嘘だろうと呟いた。 「監視ではなく観察です。」 「どっちも一緒だろう?それで?」 俺の問いかけに今からそちらに行きますという声とともにマイクが切られた。

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