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第55話

「さて、陽君。今から空君を抱いてください。」 空の絶叫がまだ耳に残る俺達に、Jは何事もないようにそう言った。 「はぁ?!ちょっと待てよ!!空は俺の番だ!何で陽に抱かせなきゃいけないんだ?!」 俺よりも先に今の番である秀先輩がスピーカーに向かって怒鳴る。 「これも実験の一つです。いいですか?あなた方は国にその生活の全てを保障されている代わりに、国の言う事には逆らえない、それがここにいると言う事なんです。」 「知らない!!そんなの俺は知らない!!」 首を振り、空を抱きしめて離さない秀先輩。 俺も本当はそうしたかった……二人のΩと番になるのは確かに色々と大変なこともあった。それでも俺は月と同じくらい空のことも愛していた。それを運命のつながり一つで俺の手から掻っ攫っていったくせに……!! 怒りが腹の底から湧き上がってくる。 目の前が赤くなり、返せ!返せ!と脳内が大声で喚き出す。 次に聞こえたのは空の悲鳴。気がついた俺は空に跨り腰を振っていた。秀先輩の姿を探すと、月を守るように俺を睨んでいる。 その後ろで震えて涙を流し俺に向かって手を伸ばしている月。 「そいつも俺のだ!!」 空から体を離し、秀先輩に体当たりして月の体を掴み空の横に放る。 「二人とも俺の番だ!!渡さない!!俺のモノを俺から奪うな!!!」 月のうなじに牙を立て、空のすでに血だらけのうなじに牙を立てた。 「ぃやああああああああ!!」 びくんと空の体が跳ね上がり、悲鳴を上げて痙攣している。 「兄貴?!兄貴!!J、兄貴がおかしい!!J!!」 月の切羽詰まった大声と共にバタンと扉の開く音がしてバタバタとJと共に数人の男達が入って来た。 「押さえてください!空君はすぐに連れて行って!!」 ジタバタと暴れる俺を男達が取り押さえ、空を抱き上げた男が部屋から出て行こうとするのを喚いて止めようとする俺にJが近付いて来た。 「すぐに落ち着きます。大丈夫です。空君はただ治療するだけです。」 「やめろ!!!俺から取り上げるな!!空も月も俺のモノだ!!やめろーーーっ!!」 「しっかりと押さえてください!!」 Jの大声が部屋に響き渡り、男達の力が一層入って俺の体が動けなくなったところにJの注射器を持った手が近付いてくる。 「やめろ!!やめてくれーーーっ!!」 「押さえて!!」 男達に押し潰されるように押さえつけられた腕にチクッとした針の痛み。血管を流れる冷たい液体。 「俺……の……」 言葉は続かず、闇の中に全ての音と共に消え失せた。

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