あれからいつの間にか部屋に戻されベッドの上で目を覚ますと、ほっとした月の顔。 「あ……俺……！空は？！」 ガバッと上半身を起こすと頭に衝撃が起こり、横に倒れそうになるのを月の体が支える。 「急に起きたらだめだって。兄貴は大丈夫。隣で寝てるよ。」 月の答えにまだ揺れてる感覚の体を、視線だけ動かして空を確認するとほっとしてそのまま月の膝に崩れ落ちていく。 「先輩のこと、知ってる？」 無言で頷く俺にそっかといって俺の髪を優しく撫でる。 「ここの真反対、一番遠い部屋にしたって。学校もαクラスにするから逆に会わないで済むだろうって。食事は……まぁ、仕方ないけどさ。ともかく俺も色々気をつけるからさ。」 月が撫でる手の優しさにギスギスしていた心が溶かされ、静かに目を瞑る。 「ん……」 「兄貴！大丈夫？」 空の声に少し気をつけて上半身を起こし、その顔を見る。 俺と目が合った空は少しの間じっとそのままで俺を見つめていたが、眠らされる前のことを思い出したのか、ボロボロと涙をこぼし出した。 「え？！兄貴、どうしたの？」 驚いた月が俺と空の顔を交互に見る。 その月の体にかけた手に少し力を入れて空の方に体を寄せ、先程の月がしてくれたように空の髪を撫でる。 「嫌だよ！僕、秀君のこと嫌いではないけど、番になんかなりたくなかった。僕にとって番は陽だけでいいのに……何で生まれ変わりなんて……覚えてもいない双子のことなんて言われても、僕には分からないよ！ねぇ、僕を秀君の所に行かせないで！」 必死に俺の手を掴んで空が言っても、俺にはそれに対して優しい答えは返せない。 何も言えずにいる俺に月がイラついたのか俺から空を引き離して抱きしめた。 「俺が何とかする！！こんな国とかJの言いなりにしかなれないαなんて、結局はΩのことを軽くしか考えていないんだ！だから同じΩの俺が兄貴を守る！」 「月……ありがとう。」 月の胸に抱かれた空が嗚咽を漏らしていても、その体に触れることも、優しい言葉をかけてやることもできない。先々のこと、俺たちの置かれている立場、そう言うことが理解できてしまうからこそ言いなりにならざるを得ない。 それでも ……俺だって空を他の奴に抱かせるなんて嫌に決まっている。 だけど 一度は好きだった……いや、今だってこの心の隅の方で燻っている先輩への気持ち。それが先輩に抱かれる空に嫉妬をしている。 さまざまな自分の想いが俺の脳内で喚き合う。 「逃げるか……？」 ぼそっと出た言葉に焦って手で口を覆った。 「陽！？」 「逃げたい！！ここから逃げて、またみんなで家族みんなで暮らそう？お母さんも、お父さんも連れて、僕たちのことを誰も知らない所に行って……」 空の嬉しそうな顔。でも出来るわけがないって皆が理解している。 空の目から流れ落ちる涙。 「もう、やめよう？兄貴、やめよう？やめてよ！！」 月の叫びに空がビクッと体を揺らし、そのまま二人抱き合って泣き出した。 俺はそんな二人から目を逸らすようにベッドを下りると、ソファのある所に向かってスピーカを見上げて睨みつけた。 キラッと反射するレンズが何も言わないスピーカーの横でじっと俺を見下ろしていた。