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第61話

その夜、空のいない部屋。月は俺の顔も見ようとせず、さっさとベッドに潜り込んだ。 二人きりになれたらさ…… 嬉しそうに話していた俺と月だけの時間も、こんな状況では空のことがお互い気になって、何も手につかずにずっと二人無言のままで過ごした。そしてやることも無くなった月はスッとソファから立ち上がるとお休みと小さく呟いてベッドへと潜り込んだ。 俺も特にやりたくてやっていたわけでもないゲームを閉じてスマホをテーブルに置く。 後頭部の後ろで手を組み、ソファの背もたれに寄りかかる。 はあ 無意識にため息が出て、ソファに寝転んだ。 今頃空は…… 助けてと手を伸ばす空。それを後ろから羽交締めにして自分の欲望を突き立てる先輩。泣きながら俺の名を呼び、それでも快楽を受け入れてしまう体はだんだんと甘い声を出し始め、最後にはうなじを噛んでとねだりさし出す。そこに突き立てられていく牙…… 「あああっ!もう……もう噛んで!秀君!うなじ噛んでぇ!!」 空の声が頭の中に響き渡り、俺は手で耳を塞いだ。 「やめろっ!やめてくれっ!!」 「陽っ!陽ってば!大丈夫?こんなところで寝るから……すごいうなされてた。」 はっと目を開けると、心配顔で俺を覗き込む月と目が合った。 「悪い。」 「陽?!どうしたの?」 月の腕を引っ張り俺の下にしてその体を抱き締める。 「空の……空が助けを求める夢を見てた。」 「うん……」 「嫌がってるのに、泣いてるのに、俺は何もできなくて……空さ、羽交締めにされて先輩に無理やり突っ込まれて……でもその内、気持ちよさそうに声上げ始めてさ……」 「うん……」 「噛んでくれって、先輩にうなじ噛んでくれってねだるんだよ……先輩も空も俺を見て笑いながら、うなじ噛んでさ、俺を見て笑うんだ……俺、もうわからねぇよ!」 「陽……」 「番って何なんだよ?!運命って何なんだよ?!俺と空は運命の番だから、兄貴なのに、兄弟なのに、俺は空を抱いたんだ!それなのにいきなり空の双子の生まれ変わり?知らねぇよ、そんなの!俺がどれだけの葛藤の中で空を、月を、兄弟を抱いたと思ってんだ?!こんなわけもわかんねぇとこに連れてこられて……もう嫌だ!俺は自分の人生を生きたい!Ωに振り回される人生じゃなく、俺の思うままに生きる人生を生きたいっ!」 抱いていた月の体から身を起こし、悪いと言ってソファから降りると、俺は部屋を出た。 「陽っ!!」 月の俺を追ってくる声を扉で塞ぎ、俺は久しぶりに並ぶソファの一つへと身を沈めた。明け方近くだろうか、ブルっと震える俺の体に毛布がかけられ、優しく暖かい手が俺の髪を撫でた。 「母……さん……」 俺の言葉に一瞬止まる手。それが再び俺の髪を撫で、俺はその気持ち良さに再び深い眠りへと落ちていった。

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