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第62話
「ただいま……」
ようやく期限が終わり、空が部屋へと戻ってきた。
俺はあれからずっと月に触れることもなくソファで眠り続けていたが、そのことを知らない空が俺と月を見て話すきっかけ欲しさだったんだろう、軽い調子で口を開いた。
「僕がいない間、二人きりを満喫してたんだろ?月、今夜は陽を独り占めさせてくれるよね?」
「あ……」
月が青ざめて空に向かって首を振る。
「残念だけど、俺はもう二人を抱かない。」
「え?!」
「陽っ!」
月の焦る声に空が冗談でしょと笑っていた顔が、真剣な表情へと変わっていく。
「空はいいけど、俺は?俺は陽の、陽だけの番なんだよ?空みたいに二人のαと番っているわけじゃないんだ!もし、ヒートが来たら……」
「お前も先輩に番ってもらえよ?αは番の解消ができるって聞いてる。そうだろう?」
スピーカーに向かって声を上げた俺に盛大なため息と共に扉が開いて、Jが男達を引き連れて入って来た。
「そうですよ。でもね、それをこの施設にいる限りさせるつもりはありません。連れてけ!」
Jの声と共に俺の目の前で月と空が男たちに羽交締めにされ、その腕にJの手に握られた注射針が刺されていく。すぐにそれとわかる甘い匂いと熱を持っていく体。
「捕まえて下さい。」
だが、Jはあろう事か俺を男達に拘束させると熱に苛まれている二人を、俺のベッドへと横にさせ、その四肢を拘束させた。
「番持ちが他のαに抱かれればそれは死ぬほどの苦痛だと言われています。普通なら倫理観の元、この施設でも行われなかったのですが……さすがにあなたの最近の行動は他の者達へ悪影響を与え過ぎました。」
「だ、だったら、俺を罰っせばいいだろ?!」
「あなたはαです。αは今の世界ではほんの数パーセントの国を動かしていく存在。それをいくらα同士と言っても罰するなど出来ません。」
「やめろ!やめてくれ!二人に手を出さないでくれ!」
「何を騒ぐことがあるんです?あなたが言ったんでしょ?Ωに振り回されるのはごめんだと。そう、あなたは振り回される側ではない。全ての者達の頂点に立つ者です。こんなΩに心乱されてどうするんですか?いいですか?あなた方も同じです。αはこの国、いいえ、世界のリーダーとなる者達です。たとえ番だろうと、あなた方とΩではその価値は雲泥の差。いいですね?そしてこの施設でのαの頂点はこの私です。この意味が分かりますよね?」
「おい、待てよ!あんた、まさか……?!」
「ええ、この部屋の状況は今、この施設の全ての部屋に流されています。さて、それでは陽君をしっかりと拘束していて下さいね?それとサンプルとして国に提出しますので、二人の状況もきちんと録画して下さいよ?」
承知しましたと言う男の言葉にJが服を脱いでベッドへと上がる。二人の悲鳴と絶叫に耳を塞ぎたくても拘束された体ではそれもできず、俺はぎゅっと目を瞑るしかなかった。
「陽君っ!」
突如、呼ばれた声に目を開くとJがこちらに向けて月の体を抱き上げ腰を振っている。
「これはあなたのせいなんですよ?それなのにあなたはそれから目を背けるんですか?見なさい!あなたのしでかしたこれが結果です!」
「うぁああああああっ!やだ!やめて!やめてーーーーーーっ!助けて!苦しい!苦しい!やだ!体中が……引き裂かれる!!やだーーーーーーっ!!!」
甘い声とはまるで違う、絶叫と悲鳴。その隣でひくひくと痙攣し、焦点の合わない目で倒れている空。
「俺の……せい……」
「そうです。あなたはΩに振り回されたくないと言いましたが、あなたはΩの人生を、命を握っているんです。あなたの一言がΩに与える衝撃はその比ではありません。現に、あなたのせいでこの二人は死んだ方がマシだというほどの責め苦を負っています。」
「もう、もう、やめてくれ!もう言わないから!もう反抗しないから!あんたの言うことに従うから!もう、やめて……ください……」
「もう少し前にその言葉を聞きたかったですね。さて、それではこの二人を抱きなさい。」
「え?!でも……」
二人に視線を向けると、二人とも体を抱え、激痛に耐えている。
「抱きなさいっ!」
「わか……った。」
俺の言葉に二人が恐怖と痛みに青ざめ、嫌だと泣き出した。
「これはあなたの番です。番とは人にあらず。αの性欲を処理するための道具と思いなさい。それを壊そうが何しようが、Ωに文句は言えません。そう、道具なんですから。いいですか?あなたにはそれだけの価値がある。皆さんもそうです!αは世界の宝なんですから!さあ!陽君!」
Jの言葉に頭の中が空っぽになっていく。掴まれていた手が離され、俺はまるで亡霊のようにふらふらとベッドへと近付いて行った。
「やだ!陽っ!来ないで!来ないで!!」
二人の恐怖に怯えた声も俺には甘く誘う声に聞こえ、それに誘われるように吸い込まれるように二人の体を抱いた。
「ぃいああああああっ!!」
「そうです。あなたはαとしてΩの抵抗も拒否も一切許さず、その体を抱けばいいんです!さあ!あなた方も同じです!αとしてΩを抱きなさいっ!!」
Jの言葉に突き動かされるように俺は、嫌がり痛みに叫び声をあげる二人に腰を突き立てた。
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