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第63話
その後、施設の状況は一変した。
同じ双子として生まれても、αとΩではその価値が違うと身をもって知らされたα達は、その自信と持って生まれたものであろう傲慢さを、番のΩへとぶつけるようになっていった。
そしてそれは俺も例外ではなく……
「やめて!陽君!やめて!!」
先輩の所へ行く空の体に俺の匂いを撒き散らし、同じα同士と言えどもその格の違いを見せつけてやると言う思いが、俺の心を支配していく。
現に俺は自分がαだと自覚し、その自信を持った瞬間から、自分でも驚くほどの変化を見せていた。
「陽君、あなたは私の直属となっていただきます。この先のより良いαのための世界を構築するため、よろしいですね?」
そうJに言わしめるほどの才能と知能がまるで泉の如く湧いて出てくる。
αの中でもトップクラスだとJはその目を輝かせて言った。
俺ほどではないにしても、先輩をはじめこの施設のα達は自分の価値を認識したことで、皆が少なからず変化していった。それまでは交流のなかったαだったが、αのための世界をと言うJの言葉に触発され、自然とお互いに議論を交わすようになり、それはいつからか特化した者同士のグループへと変化していった。
その頂点に立つJと、そのJに認められた俺。この施設での立ち位置も才覚も上であるにも関わらず、いまだに俺は空を先輩に貸し出していた。
「貸し出すって……陽、その言い方はちょっと……」
空のいない部屋で前とは違い、月を抱く。今も空がどんなふうにされているのかと思うと湧き起こるモノはあるものの、それは前とは違い怒りに似た衝動。それをぶつけるように月を手ひどく抱いて、その怒りを月の体の中に注ぎ込む。
「いぃいあああああっ!やだ!もう……や……っぁああああああっ!!」
人とも思えぬ扱いにも、それがΩの性分でもあるかのように月はどんなに酷い扱いを受けても俺を拒まない。それどころか最近では酷くされればされるほど、口では嫌だと言うが体の反応は良い。
「月って実はかなりのM?」
ある晩、抱き合った後で二人ボーッとしながら寝転びながらなんとはなしに発した疑問。
「え?!違う……と思うけど。」
「何だ、それ?」
「俺にも分からないんだ。痛いのも辛いのも嫌なのに、体はもっと刺激をくれって俺を突き動かすんだ。だけど、Jにされた時はそうじゃなかった。本当に嫌で嫌でつらくて、でも陽は違う。もっとシてって、俺に全ての感情をぶつけてって思うんだ。それが俺、すごく嬉しくて……」
「月は可愛いな。」
「……そんなまじまじ見られながら言われると……」
「なんか俺、空をこのまま先輩に押し付けたい気分なんだ。貸し出すのはいいけど、それで毎回嫌な気分になるのも面倒だし……」
「貸し出すって……」
「ん?だって貸し出してやってんだろ?元々は俺の番で、それを後から来て掠め取るような真似して。シェア?冗談じゃねぇ!俺の方がαとしてもこの施設でも上だ。その俺が可哀想な先輩に空を貸し出してやってる……何か違うか?」
「……なんか本当に変わったよね?」
「そうだな。俺はαだって自覚と自信が俺を変えた。言ったら、αはすごいって話ばかりで何がどうすごいのか分からなかった。それがあのJのαのための国って話を聞いて、国一つ作れるくらいの存在なんだって。俺達が全ての人々を支配し、より良いαのための世界を作る!そう考えたら、何か得体の知れないものが体の底から湧き上がってきて、俺は自信を手に入れたんだ。」
「そうか……きっとこの話って、βの人が聞いたら憤慨したり驚いて引くんだろうけど、何でだろう……俺は陽が自信を持ってその話をしているのを聞いてるの好きなんだよなぁ。」
そう言って俺の胸に顔を埋める月を抱きしめると、その頸に舌を這わせた。
「んっ!するの?」
「どうするかな?」
「いいよ、俺は。この体も心も全て陽のものだ。俺はきっとずっとそうして欲しかった。だから陽にどんな風にされても俺は嬉しい。兄貴のことも……本当は俺だけの陽でいて欲しいから。俺、嫌な奴だな……」
そう言って苦しそうに微笑む月と唇を合わせる。
「お前は嫌な奴じゃないよ?空とのことは、どうせこの会話も聴かれてるだろうから、明日にでもJから答えをもらえるだろう。」
「陽……欲しいって俺から誘ったらダメ、かな?」
月の体が俺の下で艶かしく揺れる。
「俺、疲れてんだけど?」
「あ、ごめんなさい!じゃあ、今夜は自分のベッドで寝るから!」
そう焦った声で言うと、月の体が俺の下から這い出ようと身を捩った。その腰に手を回してぐるんと体を回転させ、月の体を俺の腰の上に跨らせる。
「え?!陽?」
「疲れてっからさ、月が俺を良くしてくれよ?出来るだろ?」
ぐいっと腰を月の尻に擦り付けるだけで、俺の目の前で月の性器がムクムクと起き上がり、体液が伝う。
「俺が挿入れるってこと?」
無言で頷く俺に、躊躇いがちに伏せられた目がわかったと閉じて、手を自分の後ろへと回す。
「なあ、俺さ疲れてるって言ったよな?」
俺の言葉に月の手が止まって、俺が何を言いたいのか探るようにじっと見つめてくる。
「さっさと出して寝たいってことだよ!わかんだろ?」
「でも、解さないと……」
困ったように呟く月に俺は一言だけ発した。
「挿入れろ!」
ぐっと詰まる声。後ろに回した手が俺の性器を握り、震える体で受け入れる。
激痛に涙を流し声を上げる姿を見ても、俺の心は満足しない。それどころか、その奥深くを抉り、腹を突き破らんばかりに腰を突き立てる。
「陽……俺……嬉しい……」
死ぬほど辛い目にあってもコイツは俺を受け入れる。それはΩだからなのか、番だからなのか。
「つまらねぇ……」
意識のなくなった月の体を蹴飛ばすようにベッドの端にどかすと、俺は毛布を頭からかぶり、空と先輩のことを考えて下半身へと手を伸ばす。
手の届かない者への恋情は俺の心を苦しませるのに、その奥深くから感じる何とも言いようのない熱に癒される自分がいる。
そんなどうにもならない感情の渦を吐き出すように俺はベッドの中で声を殺しながら、どろっとした体液を扱き出した。
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