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第64話

「本当にいいんですか?」 翌朝、食堂で俺の方からJに近付き、それで?と答えを促す。 「空君の気持ちや……」 「それ、Jが言うんですか?あんたが言ったんだろ?Ωに振り回されるんじゃない、Ωを振り回すんだってさ。なのに今になってΩの気持ち?」 「ふふ……あなたにこんな言い方をしても無駄でしたね。分かりました。言ってしまえば、あなたと空君は世界的に見ても稀な運命が二人いるαとΩです。それこそこの地球上であなた方たった二人きり。その研究をしたいと思うのは私の部下であるあなたならば理解できるはず。」 言われて、自分達が特殊な存在であることに不思議な気持ちになる。 「どうされたんですか?」 「いや、俺は自分とここにいる奴らくらいしかαとΩを知らないんで、自分達がそんな価値ある研究対象だということを再認識したと言うか……」 「ああ、そう言うことですか。しかし、あなたも私同様、さまざまな論文などに目を通しているはずですが?」 「αであると言う時点で特別ですし、このような施設に縛り付けられた人生を送っていることがそもそも稀な体験ですが、この生活に慣れてしまうと周囲はαとΩしかいない生活。そんな中では自分の認識していた特異性も薄まってしまうものじゃないですか?」 「まあ、特にあなたはそれ以上に優秀なαとしての認識が強いですからね。」 そう言って俺をじっと見つめる。その瞳に俺の心の奥深くまでもが見透かされそうで目を伏せた。 「言えぬ想い……それもまた研究者としては面白いんですよ。」 誰へのと問う意味もないと分かっていても俺の目がJを見上げる。 「昨夜は誰を想ってしたんですか?おっと、そんな怖い目をしなくても、あなたは私たちに聞かれている事を承知でわざとあの部屋で、あのベッドであんな音を出してしたんでしょ?」 「だったら?」 「そうですね。確かにα同士での関係は世界的にも少ないまでもあります。ただ、大体がΩと出会う事でαの本能によりΩと番になってしまう。大抵の国では重婚は罪です。そして番は言うなれば婚姻関係と同等。α同士で婚姻を結んでいたとしても、番関係が成されればその時点で今はΩとの番が尊重されます。まぁ、私はその点も変えていきたいと思っているのですがね。それはともかく、そんな中でも稀にα同士での婚姻関係が続き、子を成した事例があります。」 「それは、異性間と言う事ですよね?」 「それがですね……女性同士なんですよ。」 「え?……そうか、女性同士なら子が作れるのか……」 「ええ、αにはそういう生殖器がありますからね、女性にも。そして、その子供は高確率でα……なんですよ。」 囁くように呟いたJの目が妖しく光った。 「私はね、陽君。α人口を増やしていきたいんです。そうする事で、αの為の国を作りやすく、いいえ、世界すらαを中心に回していく。今は私たちの足元にも及ばないβの権力者たちにいいように扱われています。それを変えたいのです。αの数を増やし、βなどの知能では思いもつかない世界を作る。そのためにどうしたらαを高確率で増やせるか……ねぇ、陽君も好奇心を刺激されるでしょう?」 Jの言葉はまるで魔法のようで、俺は周囲の雑音すら聞こえないほどに夢中で聞き入っていた。 「だけど、高確率でと言いますが、今の話ではαの女性同士に婚姻関係を結ばせ子を成す。それしか方法がないのでは?」 「それがですね……男性同士でも子を成せる可能性があるらしいんですよ。」 「え?!」 男性同士と言う言葉に嫌でも鼓動が高鳴る。 「この第3の性というのが発症するようになってまだ十数年ほど。そのメカニズムも何が引き金となってそうなるのかも解明されていません。ですが、それでもある程度の人数を研究する事で見えてきたこともあります。この、α同士の婚姻関係もその一つ。」 「それで?」 いつもよりも勿体ぶる話し方に少しイラッとする声が口から出る。 「ふふふ。そんなイライラしなくても……まぁ、いいでしょう。なれるんですよ、Ωに。」 「なれる?」 「そう。ΩというよりもΩと類似したものと言った方がいいでしょうか?それにαの男性がなれるんです。」 「嘘……でしょう?」 「嘘ではありません。本当に数例ですし、こちらのレポートは私クラスではないとコンタクトできないのであなたが知らないのも無理はありませんが、なれるんですよ……陽君。」 「どういう、事ですか?」 「α同士の男性の間でも子が成せるんです。Ωのヒートと似たようなことが起き、体内に子を成す為の器官が作られる。そしてそれによって現に子を成した例も報告されています。その子もαでした。どうですか?」 どうですかという問いになんと答えていいのか分からず、それでも俺の頭の中は自分にも子を成せるという事実でいっぱいになっていた。 「どうしたら?」 「さすがにそれをこのような場所では話せません。そうですね……空君はそろそろお部屋に帰っているでしょうか?ならば、秀君のお部屋に行きましょうか?」 「先輩の?どうしてですか?」 「それは行けばわかりますよ……さあ、行きましょう!」 そう言ってJに促された俺は、訳も分からぬままに先輩の部屋へと向かった。

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