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第65話

「はい。どうぞ。」 今の今まで空とここで何をしていたのか、そんな空気の部屋に通され、俺は先輩の顔を見ることもなくJの後ろをついて促されたソファーへと座った。 「それでですね、先日のお話ですが……どうですか?」 Jの問いに、立って壁に背中を預けたまま俺を見下ろしている先輩がそうですねと口を開いた。 「俺が当初ここに来た目的はそれでしたし、今でも陽が可愛い後輩という気持ちに変わりはありませんよ?」 「では?」 「ですが、あなたはどこまでを陽に話したんですか?俺と同じ内容を話して、納得して彼はここにいるんですか?」 「ふふふ。秀君は優しいんですね。あのような話を聞いてなお彼を、陽君を気にかけるなんて。」 「話?」 俺が知らない内容が含まれている会話に、我慢できずに口を挟む。 「なんの話を聞かせたんですか?」 「お前と月の会話だよ。俺に空さんを渡したいとかっていうあの会話。その後のお前の月への仕打ちも含めて聞かされた。全部、な。」 全部と言う言葉の意味を理解し体中が熱くなる。 「どこまで……」 分かっていても聞かずにはいられなかった。聞いていないと、そこまでは聞いていないと言って欲しくて、Jがそんな優しいわけがないと分かっていても聞かずにはいられなかった。 「お前が寝るところまでだ。」 「っ!?」 先輩の答えに俯いた顔が青ざめていくのが分かる。 「J、あんた……」 「ここはそう言うところだと、知っているでしょ?」 冷たく言い放つJに歯軋りする。 「それで?陽はどこまで知っているんだ?」 「それを今からここで話すんですよ。当人同士がいた方がスムーズに進むでしょ?まぁ、進まなくても進めますけどね……」 「あんた、非道だな。」 「理解して彼を迎え入れたあなたに言われたくはありませんよ。扉を開け、彼と私が一緒にいるところを見ればなんのためにここへ来たのか理解したはずでしょ?それでもあなたは彼を追い出さなかった。それどころか迎え入れ、こうやって話をしている。その時点であなたも私も一緒なんですよ?」 「そうだな……陽、先に言っておく。俺はあの会話を聞いて怒りからこの行為をするんじゃない。事実、俺はここへ来るまで、空さんに会うまではお前を好きだった。今でもその気持ちがなくなったわけじゃないんだ。ただ、抗えない。運命の番に出会い、ヒートを経験したお前なら理解できるだろ?αには逃れる術はないんだ。」 「先輩?」 「J、あんた本当に何も話していないのか?」 「ええ、そうですね。あんな話、食堂などではできませんし、ここで話すつもりでしたから。」 「だったら出て行ってもらえないか?その話をして行為をしたら、陽に俺の気持ちを信じてもらえなくなってしまう。」 「あなたは私とは違うと言いたいんですか?」 「俺はそんな事どうでもいいんだ。空さんを抱いて、空さんを愛していると言う気持ちは確かに俺の中から湧き起こってくる。守りたいって思うんだ。それでもふとした瞬間に湧き出て来る気持ちがある。ここに来なければ、空さんに会わなければ今も持ち続けていたであろう想い。陽を愛しいと思う気持ち。それが俺を苛むんだ。」 「嘘、だ。そんなのは嘘だ!」 「陽……」 ガタンとソファーから立ち上がる俺の肩を、Jが静かに立って押し戻し俺を座らせると、先輩に向かって言った。 「秀君、あなたの気持ちがどうであれ、このことは決定事項なんです。まあ、非道と言われた私にも人の心の一欠片くらいはありますからね。このまま何も言わずここを出ましょう。ですが、することはしていただきます。今回は特別にカメラも起動させていますので、馬鹿なことは考えないように。もしできないようでしたら……お分かりいただけますよね。」 丁寧な言葉遣いには不釣り合いなほどの圧をその声に含み、俺の掴んだ肩を一度ぎゅっとソファーに押し付けると、Jは振り向かずに部屋を出て行った。 残された俺はどうしたらいいのかわからず、ただじっと俯き床を見つめていた。 ギシ ソファーが先輩の重みで軋み音が鳴る。久しぶりに感じるその体温に嫌でも体が火照っていく。 「参ったな。カメラも起動されたか……」 「え?」 突然の脈絡もない言葉に思わず顔を上げる。それを見た先輩がふっと笑顔を見せた。 「やっと俺を見た。陽さ、ここに来てから一度も俺を見てくれないんだもん。」 「それは、だって……」 恥ずかしさに再び俯こうとする俺の頬を両手でそっと挟んで上げる。 「ダメだって。久しぶりに見るんだから、もうちょっとちゃんと見せてよ?陽の顔。」 「そんなこと言われたら俺……って、昨日の会話聞いたんだろ?俺、先輩に嫌なこといっぱい言ったし、だからやっぱり……帰る!!」 立ちあがろうとする俺の手を掴み、先輩が自分の膝へと俺を座らせ抱き締める。 「せ、先輩?!」 「まったく、お前って本当に仕方ねぇ奴。さっきも言っただろう?お前を想う気持ち、俺にもまだあるんだよ。お前も、そうだろ?」 「先輩の俺への気持ちは空に会うために俺に執着してだけだから。俺から匂う空の匂いに先輩が反応して、それで俺を好きって誤認しただけだって……」 「じゃあ、お前の俺への気持ちは?」 「それは……!」 「それに俺の気持ちがもし誤認だったらとっくに消え去ってるはずだろ?それでもこうやってお前を抱きしめてるだけでドキドキするし、空さんとは違う……なんだろうな、やっぱり陽が好きだ。」 その言葉に先ほどよりも体が熱くなっていく。 「なぁ、俺に抱かれてくれるか?」 「え?」 「抱きたいんだ、陽を。お前が何も知らない今だからこそ、お前を抱きたい。抱いて、俺のものにしたい。」 「知らないって……んぅ!」 無理やり重なった唇に見開いた目が先輩を見つめる。 「せ……っぱい……んっ……」 「陽、口開いて?」 「でも、俺……あっ!」 入ってきた舌に絡め取られた言葉。 何も知らないって何? 俺が何も知らないうちに抱きたいってどういう事? 聞きたいことはあるのに、押し倒された体。服の隙間から滑り込んでくる熱い先輩の手。 その熱に浮かされ、気持ち良さに声を上げ、俺は思考を無くし先輩に抱きついていた。 「先輩!! 「陽、好きだ。いいか?」 先輩のモノが俺の後ろへとあてがわれ、ぐっと腰に力が入る。 「んぅ!」 小さく頷く俺の額に口づけを落とすと、苦しそうに微笑んだ。 「陽……ごめんな……」 「え?!先輩?」 言うなり何かを口に放り投げ飲み込んだ先輩の目が充血し、その体から俺には匂わないはずの甘い匂いが部屋に充満していく。 「何……この匂い?」 「俺の、αの匂いだ……っ!!」 「ぃいああああああああっ!!!」 体内を侵食する圧迫感に悲鳴が出る。 それでもお構いなしに、先程までの優しい先輩の顔が凶暴な雄の表情となり、押さえつけられ抉り奥を激しく突かれる。 「やめ……っ!!やぁあああああっ!!」 泣き喚く俺をうつ伏せにして頭を押さえつけ、激しく揺さぶられる体。逃げようとする腰を掴まれ、一際大きな音を立てて先輩の腰が俺へとぶつかる。 「ぁああああっ!!やぁあああっ!やめ……ってく……れ……」 「くれ?違うだろ?陽、俺に頼むなら言い方、あるだろ?」 先程までの優しさの欠片もない先輩の冷たい声。見下ろす瞳の奥で妖しく揺れる冷酷な炎。 押し付けられた頭が痛く重く、ソファーに潰された鼻の息苦しさで涙が頬を伝う。 「やめ……っ下さい……やめて下さい……お願いします……」 αの上位である俺が、足元にも及ばないと嘲笑った先輩に腹を抉られ、哀願する。そんな自分のプライドをズタズタにされても、この辛く苦しい状況からなんとか抜け出したくて、俺は必死に口を動かした。 「お願いします!やめて下さい!助けてください!先輩、お願いだから!なんでも……」 瞬間、止まった口。 俺は今、何を言おうとした? 「何でも?」 先輩の俺の頭を掴んだ手に力が入り、俺の顔がソファーにめり込んでいく。 「んーーーーーーっ!!」 苦しさにばたつく手。それでも先輩は力を入れ続け、腰を動かす。 「言えよ?何でもの後、言えよ、陽!」 その言葉の圧に言わなければこの辛さからは逃れられないと悟り、もがいていた手から力が抜けた。震える唇を動かして声を出す。 「何でも……何でもするから!!助けて下さい!」 「いいよ。」 一瞬で戻ったいつもの先輩の優しい声、それと共に緩んだ手が俺をソファーから助け出し、振り向いた俺に先輩が微笑んだ。 「陽、アイシテル……」 「先輩……ぁあああああああっ!!!」 一気に奥を激しく突かれ、うなじに感じる圧。 「やめっ!!」 言う間もなくガリッと言う音と共に熱く焼けるような体液が腹を満たし、俺は体を引き攣らせてソファーへと沈んだ。

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