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第2話

 ユキが高梨の家に来て間もないころ、和希は失恋をした。同じ地区の一角に住むルーイという少年にだった。  それは憧れに近いものだったけれど、和希にとって初めての失恋だった。胸がつぶれそうに苦しくて、涙がポロポロとあふれて止まらない。しまいには泣きすぎて呼吸が苦しくなり、和希はひっく、ひっくと嗚咽をもらした。 「和希はどうして泣いているのですか?」  ユキは不思議そうに和希を見てたずねた。 「……気持……ち悪いって、言われた……んだ。おとこどう……し、なのにって……」  嗚咽のせいで、言葉がうまく出てこない。 「おとこどうしだと、どうして気持ち悪いんですか?」  ユキは心底わかっていないようだった。 「だっ……て、おとこ同士だ! 生産性が……ないじゃないかっ!」  和希はベッドから身体を起こした。ルーイに言われた言葉を繰り返し、ユキにぶつける。実際に言われたのは、本当はもっと露悪的な言葉だった。  ルーイに言われた言葉が棘のように和希の小さな胸を傷つけていた。だから、八つ当たりだとわかっていても、いったんあふれ出した感情は、止めることができなかった。 「でも、わたしはおとこどうしでも、和希のことがだいすきです。それって、いけないことですか?」  和希はぽかんと、一生懸命に言葉を紡ぐユキの顔を見つめた。まっすぐなまなざしで和希を見るユキの瞳は、これまで和希が見たどんなものよりも澄んでいてきれいだった。  和希はすん、と鼻をすすった。 「いけ……なくなんかない。ぼく……も、ユキが好きだ」  そのとき、とてもうれしそうに笑ったユキがあまりにきれいで、和希はぽうっとバカみたいにそんなユキに見惚れていた。 「ユキって、きれいだったんだ……」  呟いたとたん、忘れていたみたいに和希の目から涙がひとつぶこぼれ落ちた。

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